何でいつもこうなんだ。
予定では、A部署のグループ長が
B部署に異動してくるはずだった。
ところが、その計画は実にあっけなく、
最悪な形で狂い始めた。
本部長の口の軽さが、
すべての元凶だ。
彼が生産本部の上層部ミーティングで、
A子さんの異動をうっかり
漏らしてしまったらしい。
本部長という立場なら、
当然そこら辺の守秘義務は
守るものだと思っていたが、
現実は甘かった。
数日も経たないうちに
異動の話は生産内へと漏れ伝わり、
あろうことか、そこから
A子さん本人に直接
伝わってしまうという
お粗末な事態を招いたのだ。
「異動なんだってね?」
そう声をかけられた本人の衝撃は
察するに余りある。
本社側の事情を知る人間は、
情報管理のために必死に
箝口令を敷いていた。
それなのに、あろうことか
トップから情報がダダ漏れに
なっていたのだ。
さらに呆れたのは、
その後の本部長の対応だ。
「コンプライアンス上、内示前に
周囲が騒いでいるのは良くない。
一度話を白紙に戻すか、噂レベルに
沈めるために異動を遅らせよう」
と言い出したのである。
いやいやいや、待ってくれ。
こちらはその人を戦力の中心に据えて、
今後の計画を立てていたのだ。
自分の失態を、異動を遅らせる
ことで帳消しにしようだなんて、
筋が違いすぎる。
自分はすぐさま反論した。
「A子さんでなくても構いません。
ですが、A部署の知識と
経験を持っている『誰か』を
即座に異動させてもらわない
と困ります」
すると、2月にA部署へ異動したばかりの
B部長が、困惑した顔で口を挟んだ。
「他にですか……? 今から選ぶと?」
そこへ本部長が、名案でも
思いついたかのように言った。
「じゃあ、兼任にしよう!」
あまりの無責任さに、
自分は即座に反対した。
「今でもA子さんは抱えている
仕事が多すぎて、業務が回っていない
部分があると聞いています。
そんな状態で兼任など不可能です。
……田代さんならどうですか?」
田代さんは、もう一人のA部署の
管理職、A男くんから「使えない」と
厳しい評価をされているが、
経験豊富で人当たりがいい。
B部署が求めている
「現場との調整役」には
適任だと考え、提案したのだ。
「田代さんは、ちょっと……」
今度はB部長が渋り始めた。
田代さんはその人徳ゆえに、
生産部門との衝突を防ぐ
貴重なクッション役に
なっていたからだ。
自分も当然、その「人間力」を
見込んで提案したのだが、
B部長は手放したくないらしい。
「では、田代さんの兼任はどうですか?」
自分は本部長に問いかけた。
「半年後に田代さんを戻して、
そのタイミングでA子さんを
異動させる、ということか?」
「はい」
本部長はしばらく考えた後、
吐き捨てるように言った。
「それだと、半年後にA子さんを
異動させる『理由』が
なくなるんだよね。
B部署のある分野の立ち上げに
合わせて異動させるという
大義名分が使えなくなるから」
「では、そのまま田代さんを
B部署に定着させるのは
どうですか?」
「それはダメ! だって、
そうしたらA子さんがA部署に
ずっと居座ることになるだろ。
そうなると……エルサさんが
グループ長になれないじゃないか」
……エルサさんが?
彼女は現在、自分と組んで仕事をしている
業務パートナーだ。 本部長は彼女を
えらく気に入っている。
その偏愛ぶりが言葉の端々に漏れ出した。
「エルサさんがやりにくくないように」
「エルサさんが会社を辞めないように」
「エルサさんは今回が初のマネジメントだから、
全力でサポートできる態勢を」
……何なんだ、これは。
「口の軽さ」という自らが
撒いた種の尻ぬぐいを、
なぜこちらが割を食う形で、
しかも「お気に入り人事」の都合に
合わせてやらされなければ
ならないのか。
今日は節分だ。
「鬼は外」なんて、
悠長なことを言っている場合じゃない。
目の前の理不尽という鬼を、
今すぐ追い出したい。
いったいいつになったら、
自分に福が舞い込んでくるんだろうか。
明日からはまた出張だ。
もう、やってられないよ