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 基本的な文法のおさらいはした。さあて次のステップだ。

 それを実際に使う練習をしなくてはならない。


 正直、外国人と話したのなんて、街中で道を聞かれたときくらいのものだ。いやその時だってオレは「ここは日本なのだ」と当たり前のように日本語で返答していた。今でもその考えは変わらないが、外国人だろうが日本人だろうが、完璧には話せないにしろ、赴く国の言語で渡り歩く姿勢は最低限必要だと思う。いつだったか「何故、ロシア語(じゃなかったかも)が通じないんだ!」と憤慨する輩をBARで見たことがあるが、当然だ。

 ここはお前の国でも植民地でもねえ。

 海外でライブをやるにあたり日本語で突っ切るという選択肢もあったかもしれない。がしかし、そういった主義もありオレは英語を学ぼうと思った。



 実用化に向けての手段を考えた。

・街中で会った外国人に話しかける。
・英会話スクールに通う


 経済的には絶対に前者がいい。がしかし、そこはシャイな日本人。外国人はおろか歩いている日本人にすら声をかけることは出来ないだろう。かくいうオレもそのシャイ民族の一人、会社内ですら用がない限り知り合い以外とは話さない。


 ちなみにしばらく後で気づくのだが、度胸のある人で、フリーで外国人と話したいならBARがいい。それもドリンクは都度カウンターでお金を払って買うスタンディングBARがいい。
こういうところは知らない人に話しかけても不自然じゃない、というか酒を飲むところだと知らない人に逆に話しかけられることも多いでしょう。まあそれが外国人なのか日本人なのかという問題はあるのだけれど。

 さて日本にいる外国人はどこで飲んでいるのか? 東京在住なら簡単、とりあえず六本木行けと言いたいところだが、個人的にどうもあの街は馴染めないので勧めない。(というか行かないので知らない)
 自分の立場で考えて欲しい。例えば海外に行って外で酒を飲みたくなった場合、適当に目についた店に入るって抵抗あるよね。それは日本に来た外国人も同じこと。そういうときはどうするか? 自分で旅行したときもそうだったし、外国人旅行者にも聞いたことがある。そんなとき大抵は、旅行ガイドや街中に置かれているタウン誌に載っている店に入るのだ。


 このサイトで全国の外国人向けのフリーペーパーを紹介している。
 http://www.eigojoho.com/townshi.htm

 これらを街中でゲットして広告が出ている店に行くのもよいでしょう。(もちろん英字)


 近くにあるならこの店もお勧めだ。

 英国風パブ HUB
 http://pub-hub.com/

 東京近郊および全国主要都市にチェーンがあり、チャージもなくドリンクも安い。オレは外国人と話したいわけじゃないが普通に利用している。店舗にもよると思うが比較的外国人率は高い。




 とうとうと偉そうに書いたわけだけど、当初のオレはやはり……


 外国人が怖かった。


 BARで話しかけられるわけがねえ。

 よって、せこせことインターネットでいろんな英会話スクールのサイトをまさぐることになるのだった。
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 半月ほどかけてオレはこの本を読みきった。ちなみにかっこいい発音などはなから捨てているので、付属のCDは聴いてない。

 字が大きいし、挿絵も多いので思いのほか早く読めてしまう。(子供かってぇの……)

 内容は、主語+動詞 に始まり、疑問詞、進行形など、タイトルに嘘はなく中学英語のおさらいだ。さすがに「Do you ほにゃらら……」などメジャーどころは脳に残ってはいたが、それでもこの本に書かれている2/3以上のことは忘れていた。

 よく偉そうな人が「日本の英語教育はウンコだ」と言うのを耳にするが、一理あるのかなと思った。

 この本と教科書には大体同じことが書かれているのだろうが、ガキの頃はなんとなく詰め込むことが義務的な風潮があり、実際に自分が実生活で使うことを想定していなかった。(外国人を町内で見かけたというだけで大騒ぎする北海道の片田舎で想定しろというのも無理な話だ)それがどうだろう、実際使わなければならないという状況下で学ぶと必要なものと不要なものの判別がつくのだ。

 例えば本の後半で出てくる感嘆文、付加疑問文など、ざっとは読んでみたものの、その時のオレにとっては不要と即断した。


 <感嘆文例>
 What a big dog this is!
 これは、なんて大きい犬なんでしょう。

 <付加疑問分例>
 You like coffee, don’t you?
 あなたは、コーヒーが好きですね?


 ライブハウスの人間と話すのにこんなウィットにとんだ表現は使わない。それになにより……。


 一年やそこらの勉強で使いこなせるわけがねえ。


 日常会話など捨てているオレにとって必要な文法は、せいぜい5つくらいのものであった。

 どの文法(単語)が実際に活用できたかは、英語編の締めのときに……。



 今さら言うのも何だけど、普通に英語を勉強したい人は絶対に参考しないで下さい。

 You don’t read this, do you?
 当時のオレの英語力はというと、遥か昔、中学高校時分に授業を受け流した程度、一応地方三流大学も出てはいるが、バイトに精を出しすぎて授業を受けた記憶がほとんどない。

 中高時分はテスト前など勉強もしたがノート丸暗記で、ましてや大学入学も推薦でさらりと決まってしまったため受験勉強は一切していない。いやそれよりも問題なのは学校というものに縁がなくなって十数年、その間、英語と接するのは洋楽を耳にするくらいで、詩だって和訳する気なんてさらさらない。

作詞も同様で当時は全て日本語だった。まれにご愛嬌、ライブで叫ぶことはあっても「Don’t you know」とか「I need you」とか、ツェッペリンのパクリ以外の何物でもないお粗末極まりないものだった。



 どう学ぶか? ふたつの方法がしか浮かばなかった。

 ・英会話学校に通う
 ・独学

 なるべく金は使いたくなかった。かついきなり英会話学校に赴き、全くしゃべれもしない知識もない自分と対峙する勇気もなかったため、オレはまずは独学というネガティブな選択をした。



 本屋に行くとわかると思うが、英会話の棚には恐ろしい種類の英会話本が存在する。「ネイティブ発音……」「よく使うフレーズ……」など手に取るだけで英語がしゃべれてしまうようなタイトルがめじろ押しだ。
 がしかし、誘惑に負けてはいけない……。


 オレが購入したのがこれだ。


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 中学英語で英会話をものにする(CD付き)/ 岡部香代子 著 西東社


 まずは現状の自分を認識することから始めなければならない。


 正直言って、オレは質問するときはどういう文法か、物事を頼むにはどうすれば……、その程度のこともオレの脳の引き出しには残されていなかった。発音やネイティブフレーズなど上の上の上のレベルの話だ。半年やそこらで身につくわけがない。オレは目標を定めた……。

 片言でもいいから最低限、自分の伝えたいことを伝えられるようになろう。

 日常会話など二の次、NYでステージに立つ準備が出来ればいいのだ。世界中に友達の話を広げたいわけじゃない。



 んなわけで次の日からオレは会社通勤の電車でこのクソ重い本を読むことになった。この時点でオレは通勤以外の時間を学習に注ぐつもりは一切なかった。


 まあそんな甘い考えは、すぐに破綻することになるのだが……。