$R40 無名バンド NYへ行く



 旅客機の国際線において、無料で運んでもらえる一人当たりの荷物(自席持込は除く)は、エコノミーで20キロ以下の荷物が2つまでだ。

 国際便の荷物持込について(ANA)
 http://www.ana.co.jp/int/guide/baggage.html

 当然、別料金を払えば追加は可能だが(1つ追加ごとに2万円前後とられてしまうようだ)現地に着いてからの機動性もふまえると、荷物は少ないにこしたことはない。

 オレたちは4人編成のバンド。
ヴォーカル、ギター、ベースは自分のギター(ベース)とスーツケースが1つずつ(衣類等と一緒にエフェクター類も詰め込んだ)
 ドラムはスーツケース以外にシンバルとスネアを持参した。

 つまり、アンプ類とドラムのタム類は持っていかなかった。

※注 楽器類を預けるときは必ずハードケースにしましょう。ソフトケースは自殺行為に等しい。運搬中に楽器が壊れても全額の補償はされません。(航空会社によっては同意のサインを求められる)



 現地での機材の調達について、


 まず、NYのライブハウスに必ずあるものは以下。

 ・ミキサー、及びその周辺機器
 ・モニター
 ・スピーカー

 これらは絶対にあると言って間違いない。


 問題はアンプ、ドラムセットだ。
 これらは店には無いと考えたほうがよい。まれに店のドラムセットなどを有しているところもあるが、基本的にそれらは演奏者側が用意するというのがアメリカでのルールのようだ。

 では、アンプ類を持ってくることが出来ない(持っていない)バンドはライブを出来ないのかというと、決してそうではない。

 借りるのだ。

「誰に?」オレはブッキングが決まった Ace of Clubs のエージェントにメールで訊ねた。

「誰って、対バンに決まってるじゃないか」

 そう簡単に言い放つほど、当然のことのようだった。しかし、こっちは文化の異なる日本人、ライブハウスの所持しているものを借りるのが普通のことなので、いまいち信用できない。「絶対に大丈夫か?」「オレから対バンに事前に連絡するか?」と訊くも「No problem」とメールが返ってくるばかり。

 結局、Ace of Clubs は確証が得られぬまま本番にのぞむことになる。エージェントの言葉を信用するしか選択肢はなかった。


 一方、もう一つの出演予定のCBGB、こちらは海外からの出演者には慣れているようで、アンプ類とドラムセットを外部からレンタル出来るとのこと。手配は店がやってくる。
費用はコミコミで200$(約2万円)と高めだが、当日その機材を対バンが使うなら、負担を分割するとのこと。

 オレたちは迷わずレンタルをお願いした。

 結果的には、ウチら以外にも1バンドが使用し、負担は100$であった。重い機材を引きずることや、荷物の運送費を考えると、格段に安くついたと言える。



 概ね機材については負担を最小限におさえることが出来た。ツアーを振り返ってみて、思っていたとおりに事が運んだと言える。(Ace of Clubでは若干トラブルがあったが、それは後日……)

 唯一、個人的に後悔したのは、ギターを転がせるカートを持っていかなかったこと。
個人差はあると思うが、オレは取り分け腕力がない。当然ながらNYは異国の地。宿だったりライブハウスだったり、スムーズに目的地にたどりつけるとは限らない。思った以上に機材を持ったまま移動する機会は多いと考えておいたほうがいい。

$R40 無名バンド NYへ行く



 シナリオをシンプルにしたことで、1回の通話時間は確実に短くなった。

 電話をかけるたびに実感していったことは、この場合、


 礼儀とか愛想はあまり必要ない。


 ということだった。

 そもそも日本人はその辺のことを重んじすぎなのだ。それが日本国土内のことであれば守ったほうが良いのだろうが、今、対峙しているのはNYの人間、しかもライブハウスの人間だ。向こうも素で愛想は良くない。
 こちらの言葉がたどたどしくてもくどくどと長くなければ、向こうが不快感を抱いたケースはほとんどなかった。

 開き直ったオレは、脈無しと判断するや「Thanks, Bye」と電話を切り、次の店の番号へと視線を移した。


 相手の返答は、

「担当が不在」
「何番にかけなおして」
「こっちにファンはいるか?」
「NYに対バンのあてはあるか?」
「担当から折り返しさせる」

 など、多岐にわたる。

 コールするときの抵抗は薄らいではいたものの、話すときの疲労度は相当なものだった。なにせほとんど何を言ってるのか理解できないというのが、正直なところだった。


 電話でのアプローチも3日目となり、そろそろかける番号も無くなってきていた。とりあえずメールでは1件のブッキングは確定しているわけだし、そろそろ諦めようかと思っていたところだ。



「Hi, Are you booking agent?」

「Yeah, I am」

※以下ヒアリングが怪しいので日本語で

「ブッキングをして欲しいんだけど」

「ああ、今、募集してるよ。バンドの名前は?」



 なんと、相手はあのCBGBだった。言わずとした有名店なので、なんとなく今まで後回しにしていたのだ。



「日本のエイトマイルロードです」

「ああ、知ってるよ。いつがいい?」

※CBGBにもデモは送っていたが、それを聴いた上での返答なのか、適当に言っていたかは不明

「3月の14か、16」

「OK,じゃあ14だな。○×△□……」

「OK? 本当に? 本当ですかい!?」

「ああ、そう言ってんだろ。○×△□……」

「Sorry,Sorry,私は英語が苦手だ。あなたのメールアドレスを教えてくれ」

「ああ、いいよ。xxxxxxxx@cbgb.com」

「サササ、サンクス。本当だね? じゃ14でよろしくたのむよ……」


 受話器を置いた後、しばし呆然とするオレ。聞き間違いではなかろうか? あのCBGBだぞ。適当に受け流されただけではないのか?

 オレはハッと我にかえった。そうだ、まだ終わっていない。メールを送って交渉の続きをしなければならないのだ。



さっき電話で話したエイトマイルロードです。
3月14日そちらで演奏します。
機材について、ギターアンプ、ベースアンプ、ドラムセットは借りることが出来ますか?

**************************************************


 このようなメールを教えてもらったアドレスに送信すると、時計はすでに8時に迫っていた。オレはあわてて仕事に行くため洗面所に向かった。



 その日の仕事中はずっともわもわとした変な感じだった。CBGBできるという感動と、それが本当なのか? というねじれた気持ちと、眠気……。

 いずれにしろ、電話アプローチはもう終了にしようと思っていた。働きながら毎日こんなことやっていては身がもたない。いやそれより、オレはすでに自分の知るNYのライブハウスのほとんどに電話し切っていた。


 夜、家に帰り、真っ先にPCを立ち上げたのは言うまでもない。

 エージェントからの返信は……、

 来ていた! 機材に関する返答がきちんと。(機材については後日)

 声こそださなかったものの、ガッツポーズものだった。これで晴れてCBGBでのライブが確定したわけだ。


 メンバーの反応は様々だった。「信じられない!」と喜ぶ者、疑う者、CBGBを知らなかった者。



 ブッキングについてはこれでおしまい。
 オレたちは2つのブッキングをとりつけることが出来た。3泊5日の旅程を組みこれにのぞむことになる。

 どのような旅程にし、ライブを何回やるのか? それは自分たちの都合で決めるといい。休みをとるのが難しければ、往復航空券の都合上3泊5日が最短だし、長くいけるのであれば、NY観光をしゃれこむのもいいだろう。


 この章の締めとして言いたい。


 無名なバンドがNYのステージに立つことは十分に可能である。


 ただし、面倒くさいけどね。

$R40 無名バンド NYへ行く



 朝5時に起きるのはツライ。

 眠いのはもちろんのこと、前日の酒が抜けてない。しかしながら、これは自分の野望を実現するため決めたこと、仕方ない。

 オレは電話機の前に正座し気合を入れ(大げさでなくそうした)先日作成したシナリオをスムーズに読む練習を何度かした。そしていよいよ、受話器をとるときがきた。


 このNYツアーでもっとも過酷だったのがこの電話だ。本当に恐ろしかったとしか言いようがない。

 人は案外、会話の際にそのシチュエーションとか相手の表情などで状況を把握している。(英会話業界では常識らしい)電話の向こうで早口で話されると本当に何が何だかわからない。日常生活下では冷静を自負するオレだったが、かなりのパニクりようだったと思う。本当に一人暮らしで良かった。


 怯えつつ、数本電話をかけてみた。


 結果は散々だった。


 ブッキングのきっかけすらつかめない。いやそれどころか、先日作ったシナリオの冒頭を読み上げても、相手に「?○★???×●◎……」と早口でまくしたてられ、言わんとすることの一割も理解するのがいいところだった。

 何度も「Sorry、Sorry」と謝りながら聞きなおし、やっと向こうの一回の発言を理解出来るという状況だった。それに反して相手の面倒くさそうな気持ちはこちらに容易く、かつ痛烈に伝わった。

 やっと理解したその内容も、「今、担当はいない」とか「何時にかけなおして」とか「今は募集してない」など、疲労度のわりには良い返答はなかった。


 この調子でやっていては実が持たないし、あまりにも効率が悪いと判断したオレは作戦を変更することにした。

 まずシナリオだ。かなりシンプルに作ったつもりだったが、戦火の中では意味をなさなかった。よりシンプルにする必要がある。常識とか愛想とか四の五の言ってる場合じゃない。

 というわけでこうした。


Are you booking argent?

<訳>
あなたはブッキング担当ですか?

これで返答の、Yes、No を聞き取る。
Yes なら、、

I wanna perform your club.
<訳>
私はあなたの店で演奏したい。

可能性がありそうな返答なら、、


Sorry, My English is no good.
Please, give me your e-mail address.

<訳>
すみません、私の英語は良くないです。
どうか、あなたのメールアドレスを下さい。


 後はメールで交渉を、という算段だった。それほどに自分の英語力では電話での交渉は難しいと感じたのである。

 オレはこの作戦で後々3日ほど、電話でのアプローチを続けた。


 さてさて、結果は次回に。。