$R40 無名バンド NYへ行く



 その後、脈有りのメール返信はいくつかあったものの、店側との予定が合わなかったり、メールの返信が途絶えたりで、結局メールでのブッキング打診の成果は、Ace of Clubs 1件のみだった。

 1件とは言っても、とりあえず成果が出たので、オレは調子にのっていた。


 電話でもなんとかなるんじゃないか、と


 「英語」の章で述べたが、オレの英会話レベルは幼児以下だ。はっきり言って自信はないが、そこは勢いに任せることにした。



 まず、最初の壁が時差だ。

 日本とNYの時差は14時間(4月~10月はサマータイムのため13時間)、ほぼ真逆である。

日本だろうがNYだろうがライブハウスがやってることは同じ。店にスタッフがいるのは夕方から深夜まで、さらにブッキング依頼は基本的にライブをやってる時間は避けるという暗黙の了解をふまえると、現地時間の午後3時~午後6時となる。それを時差換算すると、日本の午前5時~午前8時だ。

 その頃オレは7時頃に起床して、8時すぎには仕事に行くため家を出ていた。
「ブッキングの電話をするのでちょっと遅刻します」という要望が通るほど日本企業はバカじゃないので、めでたくオレは翌日より5時起きをする羽目となった。



 電話をかけるにあたり、オレはシナリオを作成した。自分の英語レベルを考えるとそうせざるを得ないのは明白だった。


Hello
Please speak slowly
I'm calling about booking
I wanna talk with booking agent

<訳>
こんにちは、
どうかゆっくり話して下さい。
私はブッキングの電話をしています。
私はブッキング担当者と話したい。

**********************************************


 常識的には、まずは名乗れというところだが、こちとら英語で電話などしたことない、余裕がないことは明らかだ。よって、オレはなるべく無駄を省き、率直に本題に入るようにした。

 続いて、ブッキング担当者に代わってもらえたら……


We will be in NY in March
And, We are free on 14th or 16th
Do you have any time slots open for these day?

<訳>
私たちは3月にNYに行きます。
そして、私たちは14日と16日が空いています。
それらの日に空きはありますか?

**********************************************


 それ以降の会話、及びシナリオから外れてしまった場合は予測不能。時の流れに身を任せるしかない、というかこのシナリオだけでブッキングが成立するわけがない。そもそも「英語に自信がない」とはなっから宣言している電話口の相手にきちんと応対してくれるかも疑問である。

 などとネガティブな思いをめぐらせながら、オレは朝5時に目覚ましをセットし、いつもより早めに酒をあおり、布団をかぶったのであった。




<国際電話のかけかた>

※ライブハウスの電話番号を”212-xxx-yyyy”とする。

日本の固定回線からかける場合
0101212xxxyyyy

日本の携帯電話からかける場合
+1212xxxyyyy

 尚、通信会社によって、固定回線であれば”010”の前に各通信会社の特定の番号を追加することによって微妙に料金が違うなど、かけ方は上記だけではない。
 国際電話料金はバカにならない。料金にこだわるのであれば各社の料金を比較した上で、利用するのが良いだろう。

 ちなみにオレは面倒だったので、比較はしていない。勝手に大差ねぇんだろうと決めつけていたので、どれほど差があるのかはわからない。
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 ある日、このようなメールが来た。


I received your 3 song demo and I would like to offer you a booking.
We are Ace of Clubs ( www.aceofclubsnyc.com ) I do not know when in March you will be in New York City, but if Wednesday March 15th works for you, it works for me.
I will book you with 2 local rock bands.
Let me know if this sounds good.

**************************************************


<訳>
私はあなたたちの3曲入りのデモを聴いて、ブッキングのオファーをしたいと思う。
私たちはAce of Clubs です。
私はあなたたちが3月のいつNYに来るのかわからない。
しかし、もし3月15日の水曜なら提供出来る。
それは私の担当する日で、地元の2バンドとのブッキングとなるだろう。
都合が良ければ、連絡を。

**************************************************


 国際郵便で送ったデモを聴いての返事だった。オレは飛び上がった。


 はるばる海を渡ったオレたちのデモが向こうのブッキング担当の耳に届いたのだ!


 この時点でまだブッキングの確定はひとつもなかった。つまりは航空券等の手配はしていない。店側が3月15日としてくれるならば好都合、その日を確定させてツアースケジュールを組んで、近隣の日でブッキングしてくれる他の店を探せばいい。

 即、オレはメール返信をした。



Thank you for replying so quickly.
We can perform on March 15.

Will you do me a kindness?
We cannot bring equipment.
could I borrow guitar cabinet, bass cabinet and all drum kit.
I am looking forward to your reply.


<訳>
早速のご返事有難うございます。
私たちは3月15日に演奏出来ます。

お願いがあります。
私たちはギターアンプ、ベースアンプ、ドラムセットを持っていくことが出来ません。
お返事お待ちしております。

********************************************


 という形で、めでたくひとつめのブッキングが決まり、以後、この流れで機材の準備などのメールのやりとりをすることになった。(機材については後日別の節で案内したいと思う)

 この時点で、今まで絵空事であったNYライブが一転、突如現実味を帯びたものに変わった。3月15日が決まったことによって、とりあえずNYツアーは成立することになったのだ。



 ことのほかあっさりと、当初の目論見どおりメールだけでブッキングが決まってしまったのだ。
がしかし、そこで満足するオレではなかった。次にオレが考えてしまったのは、

 せっかくだから、もう1箇所でやれないかということだった。

 メンバー全員が週5日の勤め人であることから、NYツアーは3泊5日で行う予定だ。つまり、3月15日の前後の日は空いており、別の場所で演奏が出来るということである。

 というわけで、オレはそれらの日にブッキングしてもらえる店を、もうひとふんばり探すことにした。
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 デモ音源やEメールの送付が終わったということで、ブッキングの第一段階は終了だ。
次はお店からの反応を待つ。

 都合、オレは10数通のデモと、30~40のEメールを送った。


 それに対しての返信は、最終的にEメールが10数通だった。


 郵便と電話での返事は一切なかった。そりゃそうだ、経費も手間が格段にかかるのだから。



 返信メールは大まかに言って3パターンだった。実際にきたメール文を紹介する。



<パターン1>

do u have a good fanbase in nyc?

<訳>

NYにファン層はあるんですか?
※ u = you という書き方をする人は多い


 パターン1は以上のようなかなり現実的なもの。
“good fanbase”とは“良心的なファン”という意味ではなく、“金になるファン”と判断して間違いないだろう。

 周知の通りオレたちは向こうにファン層などない。ハッタリをかまし、とりあえずブッキングまでこぎつけるという選択肢もないではなかったが、いざ現地に行って客がひとりもいなく、店の人間に胸倉をつかまれるという絵がたやすく浮かんでしまったので、以下の返信をした。


I'm pleased to get your e-mail!
We do not have a lot of fans in NY too much.
However, we will advertise our show.
And we think that we want to increase fans.
If it is possible
We want to booking with the band in NY.
Bye for now.

<訳>

ご返信感謝します。
私たちはNYにそれほど多くのファンはいません。
しかし私たちは私たちのショーを広めたい。
そして多くのファンを増やせると考えている。
もし可能なら
私たちはブッキングを頼みたい。
さようなら。


 という非常に謙虚な内容だ。
 パターン1は数件あり、それら全てに以上の文を返信した。
 
 がしかし、それ以降やりとりが続くメールは1件もなかった。



<パターン2>

please get back to me in like 2-3 weeks to confirm
thx,

<訳>

2~3週後に決めるので、また連絡ちょうだい
※thx = thanks


 オレはライブ決行目標の大体3ヶ月前からにメール送付を行っていた。つまりパターン2は、その時期にメールをくれれば検討するということを意味している。
 これらに対しオレは


I'm pleased to get your e-mail!
We E-mail again in “送る月”
See you

<訳>

返信メールに感謝します。
私たちは“○月”にまたメールします。
ごきげんよう。


 という返信をし、後の再アプローチのため、マイスケジュール帳にその予定日を記した。



<パターン3>

What dates in march?
I can probably get you a good show in New York,
I know lots of Japanese rock bands here, too, who may wanna play with you...
bye for now,

<訳>

3月のいつだい?
オレはたぶんキミらのNYライブの力になれるよ。
オレはここでの多くの日本のバンドを知ってるし、キミらと演奏したがるやつらもいるかもしれない。
じゃあね。


 かなり脈有りの返信である。初めてこのパターンのメールが届いたときオレは飛び上がるほど喜んだ。

 これに対してオレは、


Please let me perform on “月” ○th or ●th.
We will give a wonderful performance.
We are looking forward to your good reply.
Bye.

<訳>

“月”○日か●日に演奏したいです。
私たち良い演奏をします。
あなたの良い返事を待ってます。
では。


 と返信し、店側からの次の返信を待つということになる。


 経験上、1回のメールのやりとりで、ブッキングが確定することはない。つまり、その後、数回のメールのやり取りは必須だろう。

 さらに返信の内容が上記の3パターンだけとは限らない。そういった場合は excite 等の翻訳サイトと格闘して、メール文の読み書きをしなければならない。だがしかし、そこはメールの利点、すぐに返信する必要はない。ゆっくり時間をかけて翻訳をすればいい。