$R40 無名バンド NYへ行く



 ついにオレたちはNYの地に立った。

 NYについて書こうと思うが、町並みがどうとか、人種のるつぼだとか、ガイド本に書いてあることを書いても意味がない。

 あくまでもバンドマン(売れてない)としての視点でのNYを伝えたい。



<喫煙について>

 まず、NYの地に立つ前に14時間程飛行機に乗らなければならない。ここで軽く問題が生じる。

 喫煙である。

 えてして音楽をやってる人間に喫煙者は多い。そしてもちろんのこと航空機内は禁煙である。

 当バンドメンバー4人中、3人が喫煙者だった。幸か不幸か1人のノンスモーカーがオレであったため、彼らのツラさはよくわからない。はたから見ていて、とにかくムズムズしている……、としか形容しようがなかった。
 うち1人が薬屋で売ってる禁煙用のガムみたいのまで持参していたが、あまり効果はなかったようだ。

 まあこればかりは「耐えるしかない」としか言いようがない。

 空港に到着し、入国審査を終えた後、彼らは真っ先に喫煙所を探していたのはけっこう笑えた。


 喫煙については日本よりもNYのほうがかなり厳しい。全ての飲食店内は禁煙である。相当ガラの悪そうなバーやクラブでも喫煙するときはいったん店の外に出なければならない。もちろんライブハウスも同様で、TATOOバリバリの兄さんたちがいそいそと外で喫煙している風景はNYならではのものだ。

 宿の喫煙可否は様々だ。
 ホテルは基本的に禁煙ということになっているが、こっそり窓を開けて吸ってる客は多い。
居住用の建物内での喫煙に規制はない。よってアパートメントホテルやゲストハウスは室内で吸えるか?というとそうでもない。オーナーの趣味によって喫煙の可否が決まっているので、喫煙に相当なこだわりがあるのであれば、予約時に確認しておいたほうがいいだろう。(喫煙不可の場合はWEBサイトに書いてあるところが多い)

 最近、日本でも制約が広まりつつあるが、歩きタバコもNGだ。しかしながらたまに吸っている現地人を目撃することはある。(立ち止まって、吸殻をポイ捨てしなければ誰も文句は言わないだろう)

 いずれにしろNYの喫煙者は肩身の狭い思いをしている。しかしながら日本の建物(施設)でもこういった規制は広まってきている。あながち別世界の話ともいえない。

 ちなみにNYのタバコは9$~と非常に高価だ。喫煙者は成田空港の免税店で購入していくことをお勧めする。



<飲酒について>

 タバコに反し、NYの酒は安い。
 DELI(コンビニみたいなもの)だとバドワイザーの350mlが1$からだ。「から」がつくのは店によって値段が違うということ。正確に言うと店のあるエリアによって値段が変わる。マンハッタン中心部に近くなるほど値段が上がるのだ。つまりはタイムズスクエア周辺が最も高いということになる。

 バーや飲食店での値段は日本と同じくらいだ。ビールだと4$くらいから。ビールも大抵の店には瓶と生がある。生は英語で「ドラフト」、日本と違うのは、店には数種類の生がおいてあるということ。カウンターに3~5つビールサーバーが並んでいてそれぞれにラベルが貼ってある。ラベルの名前を告げるか、指で指し示すとそれを注いでくれる。
 瓶ビールとは、大瓶を数人でグラスに分けあって飲むというものではない。全て小瓶を一人で飲むというスタイル。

 飲食店の料金の支払いについて。
 食事をする店だと日本と同じで、店を出るときに清算してもらいまとめて払うが、バーだとキャッシュオン式の店がほとんどだ。キャッシュオンとは一回頼むごとにお金を払っていくという方式。なお、キャッシュオン店ではチップは不要。(払う人もいる)


 日本ではたまに屋外や電車内などでの飲酒している人を目にするが、NYではまずお目にかかれない。泥酔して路上に突っ伏しているなんてのもまずない。

 こんなことがあった。NYに着いたその日、メンバーで近所のDELIに買出しに行った。
メンバーの一人がバドワイザーを1缶購入した際、身振り手振りで「すぐ飲むから袋はいらない」と言うと、大柄な黒人の店員はニヤリとし、メンバーのバドワイザーをひょいとつまみ、紙袋に入れ、缶を開け、ストローをさしてくれた。たぶん「これで大丈夫だよ」的なことを言ってくれたんだと思う。
 こんなことが許されるのは観光客ぐらいのものだろうが。

 海外でハメをはずすことは悪いとは思わないが、最低限現地のルールは守りたい。
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 当バンドのベーシストは、商品をルートで配達するドライバーだ。週6日の勤務で自分の配送エリアをまかされており、日々そのエリア内の配送先をグルグルと回っている。
 今回の休日の取得にあたり初めて知ったことだが、なんと彼の会社には有休というものが存在しないという。

※法的にはアルバイトだろうがガテン系だろうが、長期雇用で働いている労働者に対し、企業は一定基準の有給休暇を与えなければならないのだが、暗黙の了解で無視されていることが多い。(使われている側の人間も権利があるのは知っているが、怖くて言い出せないといのが実状)

 オレも過去にバイト先でそういった待遇について揉めたこともあるので、こういった事実があることは知ってはいたが、正社員なのにも関わらず有休がないというのは少々驚きだった。

 しかし、オレたちにとって重要なのは、有給か無給か?ということではない。いずれにしろ休みが取れればいいのだ。休んだ日の分の給料がもらえるかどうかについては、冷たいようだがオレが首をつっこむ話ではない。本人らが戦うべき問題だ。



 いやーな予感がした。

 数日後、ベースが会社に休みを取りたいと告げると、案の定「忙しいからダメだ」と言われたという。

 オレはNYツアーを計画する段階で、メンバー全員に「5連休は取れるか?」と聞いて、全員が取れると言ったから動いたのだ。ブッキングが決まった後にやっぱり取れないと言われるのはたまったもんじゃない。

 問題はシンプルだった。「自分で取れると言ったんだから、とにかく休みを取れ!」としか言いようがない。



「取れ!」→「ダメだった」→「何とか取れ!」→「やっぱりダメだった」

 こういった押し問答が1~2週間続いた。

 あげくの果て、オレは「法事だ」と言えとアドバイスした。葬式だと本当に出発直前に言わなければいけないというリスクがあるし、嘘でも身内を殺すのは心が痛む。法事なら3回忌とか7回忌とか地方ルールがいろいろあるので汎用性があるというわけだ。
 などとやっていて、何故オレがメンバーの休日取得の入れ知恵をしなければならないのかと、やるせない気持ちにもなったが、オレを含め他のメンバーは準備万端なのである。こんなところで諦めるわけにはいかなかった。

 そうこうしているうちに、

「法事、云々」→「4日なら」→「喪主をしなければならない」(これもオレの入れ知恵)→「じゃあ、しかたねえか……」と会社側は徐々に軟化していった。

 こうやって書くとあっさりしたものだが、オレはその過程で「そんな会社やめちまえ」とか「そんなんで生きてて面白いわけ?」などかなりの暴言をベースにやさしく吐いている。
 ツアー後もベースは普通にその会社に通っているので、どの方面でも波風は立ってはいないが、ここまでやらなければ休みを取れないものなのか?と当時のオレは非常にストレスを感じたものだ。

 しかし、今振り返ってみれば、これはイレギュラー中のイレギュラーではないかと思う。なぜならこういった会社との問題は、本人の「性格」とか「考え方」とか「会社での普段の立ち振る舞い」に起因する面が大きい。
 うちのベースの会社での実際の立場や人間関係はどうなっているかはわからないが、例えば「上役が怖くて言い出せない」とか、「他の社員が休まないから気を使っている」とか様々な要因があるのだろう。しかし、オレは結局のところ、最終的には本人の意思の問題であると思う。

 体質の悪い会社が世間でまかり通ってるの事実だ。がその反面、それに対して文句を言わない労働者がそんな会社をのさばらせていると言えなくもない。


 オレは若かりし頃、何人かの有志とともにアルバイト先に有休を出すよう要請したことがある。無料の弁護士に相談などした上で、「法的におかしいのでは?」と会社に説いたのだ。

 結果、かなりの時間と労力を要したが、有休の取得に成功した。さらには、会社側が有休の取得可能の旨を全アルバイトに開示しなかったため「組合を作るぞ」と脅して全体に開示させた。(組合云々……というのは弁護士の入れ知恵)

 ここまでなら美談である。
 しかしながら、これらの問題が落ち着きひと段落したところで、オレたち首謀者数名は全員、全くこれまでと関係のない部署に飛ばされた。理由は「会社にたて突いたため」ではない。
「他部署が優秀な人材を必要としているため」であった。

 企業なんてこんなもんである。オレだけじゃなく、身に迫る方も多いのではなかろうか?



 話はそれたがいずれにしろ、オレは普段きちんと働いていて、計画的に会社に申告していれば、休みは確実に取得出来ると考えている。

 万一、会社側がアナタの弱みにつけこんで、無茶を言ってきた場合は戦うしかないだろう。
 ただしその場合、最悪のことは想定しておいたほうがいい。そして、もしアナタがそこまでリスクを背負いたくないと言うのであれば、ツアーは諦めた方がいい。

 単純にどちらが重要なのか?

 大切な方をアナタは選択するべきだ。
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 日本人は世界一有給休暇を消化しない国民である。

 それの原因とか、どうすべきか?はここでの問題ではない。とにかくNYでライブをする場合、最低は5連休をとる必要がある。(往復航空券ではなく、片道の組合せなら2泊4日も可能ではある)

 これにはアドバイスもくそもない。ただ自分で会社に申請して休みを取りましょうとしか言いようがない。

 雇用形態にもよるだろう。定説としては、アルバイトより社員の方が休みを取り難いということになるのだろう。

 オレたちの当時の雇用形態はこうだった。

 Vocal 正社員 オフィス系
 Guitar 派遣社員 オフィス系
 Bass 正社員 ガテン系
 Drums 契約社員 オフィス系

 問題なく休みを取得出来たのは、ギターとドラムだ。
普段まともに働いていて、頻繁に休みをとっていなく、前もって申請していれば、取得出来ないということは基本的にないはず。


 ヴォーカル(オレ)は、有休も消化してなかったし、相当事前からしつこく上司に言っていたため、取れることは間違いなかったのだが、若干問題があった。
 当時、相当忙しい現場にいたので、とても「海外に行ってきます」とは周辺に言える雰囲気ではなかったのである。

 なのでオレは嘘をついた。

 「諸事情で実家に帰る」と

 不思議なものである。「海外旅行」は許されないが「帰省」なら許されるのである。
 嘘をつくなら徹底的についたほうがいい。上司(同僚)にだけ本当のことを言うなどと、中途半端な嘘は絶対にやめたほうがいい。「ここだけの話……」というのは本当によく広まるのは皆さんもご承知のことでは?


 どうせやるならここまでやる。

 東京で買える地方名産品
 http://www.takusan.net/antenna/

 それ以外にも地元の製菓メーカーのWEBサイトを見ると通販で買えたりする。この場合注意したいのは3点。

 まず、賞味期限を気にすること。(通販の場合、大抵はサイトに賞味期限日数が記載されている)お菓子なら日保ちするものは多いが、生物(クリーム、パン生地など)を使用しているものは賞味期限が短いので注意が必要。

 次に商品はNYに行く前に注文し、受け取っておくこと。いわずと知れたこれはお土産である。ツアー後、会社に戻って一週間後にお土産登場なんておかしいよね。

 最後に包み紙。通販なら菓子メーカーの包装紙に包まれているので大丈夫だが、地方からのアンテナショップで買うと「○○県物産店」と記されていることがあるので、包装紙をはがしたり、袋を変えて持っていく必要がある。

 面倒なら、みやげはなしでもいいだろう。今回は旅行ではなく「諸事情で実家に帰った」だけなのだから。



 このツアーで一番大変だったのは、電話でのブッキング交渉であると、以前書いた。
 もし「その次にくるのは何なのだ?」と問われれば、オレは迷わず答えるであろう。残り一人、ベーシストの休日の取得であったと。