ブリスの自己主張(盲導犬ブリスと犬の気持ちがわからないユーザーとのユニット) -3ページ目

ブリスの自己主張(盲導犬ブリスと犬の気持ちがわからないユーザーとのユニット)

盲導犬ブリスと犬の気持ちがわからないユーザーとの生活・・・


その日は同僚が休みのために、退勤時間は30分遅かった。

この時間はちょうどバスに間に合うかどうかの微妙なラインであった。

ブリスと一緒にバス停を目指すが、バスは行ったばかりなのか誰も並んでいないようだ。

おしゃべりはなく、道路を走る車の流れと、夕方の静けさだけ。

誰も並んでいないバス停の先頭を探すのは難しい。

「バス停」

と、何度も言いながら探すと、ブリスが立ち止まったので、そこで待つことにした。

たぶん、バス停の数歩手前であり、乗車のためにガードレールは途切れているところ。


この時間帯は経路の違う茅ヶ崎駅行きのバスが二台続けてくることもあるので、逃さないように注意しながら待っていると、バスが通り過ぎて行った気がした。

「もしかしたら、この場所はバス停じゃないのかもしれない」

そう思った瞬間、ブリスと一緒にバス停を探すのに駆け出していた。

いつものバス停がこの先にあって、さっきのバスが乗車中であったら、そしてその最後に間に合えばいいな。

そんなことを思ったりして、ひたすら走った。


しかし、なかなかバス停は現れない。

もしかしたら、誰も並んでいないのでは。

それに、バス停はこんなに先じゃないだろう。

そう思いながらも走る、走る、走る。

すると、かなり先を走っていたはずのバスが停車して扉が開いた。

そして私とブリスはなんとか追いつくことができた。

しかし、ここはバス停なのかしら。

私は戸惑った。

中から車内のアナウンスが聞こえてきた。

「とりあえず乗車しよう」

ドアをさがそうとすると、、ガードレールが阻んだ。

「何故?」

バスの中から若い男性が出てきて「気をつけて」とガードレールの向こうから手を貸してくれた。

「段差があるからね」

私はガードレールとバスの間を誘導されて乗車した。

自分がバス停ではないところから乗り込んだのはわかった。とりあえず席へ座ろう。

しかし、乗れたのはいいのだが、何がどうなって乗れたのかわからない。

バスが駅に到着したので、最後に並んだ。

カードをタッチしてから、「乗せてくださって、ありがとうございました」と運転手にお礼を言った。すると運転手は「無視してすみませんでした」と言った。

その言葉で、全てが繋がった。

私とブリスはちゃんとバス停の先頭でまっていたということ。そしてバスは私たちを無視して通り過ぎたということ。

ただ、私たちは、無視されたことを知らずに、バス停を間違ったのだと思い込んで、いつものバス停を探すために、走ったのだった。

運転手は、驚いただろうな。

無視して走り去ったバスを、盲導犬と視覚障害者のおばちゃんが追いかけてくるのだから。

バスの乗客だって、何人かは気付いたかもしれない。

バス停で無視された盲導犬と目の見えないおばちゃんが追いかけてくる。

だから、あんなガードレールをはさんだ変なところで停止したのかもしれない。

バス停で私たちを確認して、それでも無視した運転手さん。

サイドミラーにうつる、盲導犬とおばちゃんの走り続ける姿に何をおもったんだろう。

もしかしたら、加速して走り去ることもできたかもしれない。

でも、そのバスは停止した。いや、停止してくれたのだ。