how to lose a guy in 10 days

原作のある映画では、何も削ぎ落とすばかりが脚色作業じゃない。
短編が原作の場合、最近の『サウンド・オブ・サンダー』しかり、
ミリオンダラー・ベイビー』しかり、原作に相当肉付けしないと
一本の映画にはならない。前者のケースは、最初の設定だけが原作
の話で、中盤から結末に至るまで、ほとんどオリジナルの物語だ。
後者は同じ作家の他の短編小説の話を寄せ集めて再構築し、監督の
意向を反映させたもの。いずれにせよ、原作にはないオリジナルの
部分の割合が非常に高いので、原作の評価と映画の評価はまったく
別モノになる。

中には『ポーラー・エクスプレス』のように短編の絵本を原作に、
そのイメージをまったく損なうことなく、出だしと結末を原作通り
に設定し、中間の話を膨らます形で成功している脚色の例もある。

また、ごく稀に物語自体が原作には存在しない、という例もある。
そんな珍しい脚色成功例が、『10日間で上手に男をフル方法』だ…
(原作はハウツーのイメージカットだけで、物語がないのだ!)

全米では、2003年2月に公開(日本では2003年8月公開)され、
1億ドル以上を稼ぐ大ヒット作となっているので、その意味でも
成功作として評価していいラブコメだ。が、日本語のタイトルは
意味がまったく逆さま。原題は『How to lose a guy in 10 days』
(10日間で男にフラれる方法)というコメント程度の文字しかない
イラスト主体のハウツー・パロディ本。OL二人が自らの体験や、
友達のフラれた話を基に、よくある「男に嫌われる女性の言動」を
羅列しただけの絵本みたいなものがベストセラーになってしまった
のは、その内容が本質を突いていて実に面白いからだ。

このベストセラー本が、どういう風に脚色されたのかというと……

“10日間で恋人をつくれば大口クライアントを担当させる”という
約束を取り付けた広告代理店勤務の独身男と、政治記事を書きたい
のに上司の企画から“10日間で男にフラれる方法”を体験取材する
ことになった新米ライターの女。この二人がお互いの目的を果たす
ために出会って、“偽りの恋愛”を繰り広げるが、次第に……

という典型的なラブコメ物語になっている。この男女を演じるのは
……まず、男の方は『評決のとき』(1996年)でブレイクした後、
知的な好青年役が続いたマシュー・マコノヒー。『サラマンダー』
(2002年)ではタフガイ系にイメチェンを果たし、『ウェディング
・プランナー』(2001年)のヒットでラブコメへの出演も増えた。
一方、女の方は『あの頃ペニー・レインと』(2000年)でブレイク
したケイト・ハドソン。80年代のラブコメ女王ゴールディ・ホーン
の娘だから、血は争えないということか、コメディセンスは抜群。



ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
あの頃ペニー・レインと

そんな彼女が、男性の好きなスポーツ観戦をわざと邪魔したり、
相手の仕事中にどうでもいい内容の電話をかけまくったり、
留守伝に何度もしつこくメッセージを入れたり、
男の部屋を自分の物で埋めつくしたり……といった
男にフラれるパターンをこれでもか、と実践する!

それだけでも十分面白いのだが、男はなかなかフッてくれない。
そのうち実家の家族団欒にまで招待されて、予想通りというか、
二人はマジでお互いのことが好きになっていく……(笑)
というラブコメの定番路線を突き進む。

ところが、お互いの目的がバレて、パーティ会場は一瞬のうちに
修羅場と化す(この最後の盛り上がりシーンは少しヤリ過ぎ?)

この時、二人がデュエットするのが、カーリー・サイモンの1973年
のナンバー1ヒット曲「うつろな愛」だ。オリジナルはサビの部分
で、なんとミック・ジャガーがハモっている、とっても好きな曲…
(彼の鼻にかかったダミ声のせいで、「とても歌いにくかった」と
カーリー・サイモンは笑って話していた)

さらに、ニューヨークからはフェリーで行くのが便利な彼の実家の
スタッテン島の風景等、全編ニューヨークとその近郊で撮影された
雰囲気がまた大好きだ。ハリソン・フォードとシガニー・ウィバー
共演の『ワーキング・ガール』(1988年)や、ニコラス・ケイジと
ブリジット・フォンダが共演した『あなたに降る夢』(1993年)、
ジョン・キューザックとケイト・ベッキンセイルが共演した
『セレンディピティ』(2001年)など、ニューヨークロケの
ラブコメにはなぜか不思議な風情があって、例を挙げれば
キリがないほど好きな映画が多い。

この映画も、予想通りの結末を迎える定番のラブコメだから、
単に本編だけ見たら及第点ぐらいの出来かもしれない。けれど
DVDでは、例の原作がいかに映画化されていったか、という
特典映像が収録されており、これは映画製作者や脚本家に
とっても参考になる話が満載だ。本編よりそっちの方が
人によっては興味深く見られるかもしれない。
というわけで、総合評価は大アマの★★★★

ちなみに、監督のドナルド・ペトリは、ジュリア・ロバーツの初
主演作『ミスティック・ピザ』(1988年)で注目され、その後も
ジャック・レモンとウォルター・マッソーのコンビを復活させた
『ラブリー・オールドメン』(1993年)や、
サンドラ・ブロック主演で1億ドル突破のヒットとなった
『デンジャラス・ビューティー』(2001年)など、
コメディ演出を得意とする監督だ。



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サントラ, キース・アーバン, ルース, シャンタール・クレヴィアジック, ジョージ・ソログッド, デストロイヤーズ, アル・グリーン, ジン・ブロッサムズ
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