tough構文とwh移動~『モーガン・フリーマン 時空を超えて』 | 学習塾・家庭教師 秋田市 泉 保戸野 英語の英学ゼミ ブログ

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秋田市の学習塾です。2014年6月1日にOPENしました。
学習支援を通して地域に貢献してまいります。
英語の仕組みに若干詳しいかなと思います。

20170402


2016‐2017年の年末年始は気になる英文があって、いろいろと調べてました。


(1)What is important for us to do?

通っている女の子が持ってきたテストに載っていた文なのですが、初めて見たときに少し変な感じがして、もしかして文法的にアウトなんじゃないかと。しかし明確な根拠を持ち合わせていなくて。wh移動の違反か?それとも今まで見たことがないだけか?


日本語で言おうとしていることはわかりますし、和訳しようと思えばできますが。

英語話者ではないので文法性の判断も知識として蓄積しなければいけない立場。

私が知らないだけで文法的にOKなのかもしれない。まずは自分を疑いましょう。

ということで文構造、構文、不定詞節、形容詞(important)等について辞典や文法書を調べ、英語学の書籍を読み、使用例のネット検索も行ってみました。

得られた情報を調べた順序に文構造を見ながらまとめてみます。

まずは(1)の主語は何なのか。疑問代名詞whatが主語だと思います。

ただwhatを用いた疑問文のままだと構造が理解しにくいので次のような肯定文に変えてみます。幸いなことに肯定文にしても語順が変わりませんので。

(2)This work is important for us to do.

こうすると後ろの不定詞節内の目的語はthis workであるとわかります。つまり(1)のwhatは主語であり、同時に不定詞節内の目的語でもあると言えます。(2)の移動前の形が(3)。

(3)_ is important for us to do this work.

ここで(2)の文の形を見て気付く人もいると思いますが、これはtough構文と同じ形ですね。

tough構文という名前は使っていませんが、高校の文法書の不定詞の項目にも載っています。英和辞典だとtoの項目にあります。

tough構文の特徴は、[be+形容詞(名詞)+to不定詞]の形で、形容詞には難易や快・不快を表すものが使われるようです。

ただし形容詞だけではなく、a breezeやa bearなどの名詞も補語の位置に入るようです。

さらに不定詞節内に空所が生じ、主語がそれに対応するとのこと。

(2)では、this workが主語位置に移動することで空所が生じていると考えられるので、tough構文の特徴に合致します。

(4)This work is important for us to do _.

しかし問題は形容詞importantですよね。難易や快・不快ではないですよね。したがって(1)も(2)もtough構文である可能性は無いですね。

あとはimportantが空所の生じる[be+形容詞+to不定詞]の形を取れるかどうかです。これで(1)と(2)が文法的にセーフかアウトかが決まります。

tough構文に形が似ている構文が結構あるんです。too/enough構文、pretty構文、clever構文、eager構文などがあり、それぞれ特徴が異なります。もしかしてimportantの構文もあるのかなと。

所有する辞典や文法書を探してもこれがなかなか答えとなる記述が見つけられない。そこで困ったときのネット検索。

[be important to do]で検索すると上位にZ会のページが出てきて、importantは[It is to不定詞]の構文のみに使われ、[形容詞+不定詞]では用いられないという記述があるようです。

Z会の方々が言うのであれば間違いないです。ということで、ここで調査終了。

この知識さえあればすぐに解決できたということですね。私には無かったです。

(5)English is hard to learn!!!

残念ながら(1)はtough構文ではありませんでしたが、偶然にも最近テレビを観ていたらtough構文を見つけました。

(6)“... an alien tongue could be easy to learn.”
『モーガン・フリーマン 時空を超えて 宇宙人はどのように思考するのか』(Eテレ金曜午後10時~)

この英文の少し前にもimpossibleを使ったtough構文が出るんですが、どうしても聞き取れない単語が入っていて・・・おまかせします。

少し分析的に見てみると、形容詞は難易を表すeasyなのでtough構文の特徴に一致します。

さらに動詞learnの目的語an alien tongueが文の主語位置に移動して空所が生じています。

(7)an alien tongue could be easy to learn _.


そしてこの移動に関してですが、tough構文における移動の操作は要素をIPの指定部に移動するNP移動ではなくCPの指定部に移動するwh移動が適用されているという分析がなされています。

本来は記事のタイトル的にもこの辺の内容(wh移動が適用されているという分析の妥当性)を詳しく書くべきなんですが、例文を借り、話を進めていくのがいろいろな意味で大変なので、後で紹介する書籍や論文を読んでいただければと思います。

それでは話を戻して(1)をどのように直せば文法的にセーフで、意図する意味になるのでしょうか。これなんかどうでしょう。

(8)What is the important thing for us to do?

これであれば、A is Bのシンプルな形で良いかな。不定詞節for us to doも形容詞的用法として名詞thingにかかる形できれいに収まるし、語順も(1)とそれほど変わらないし。

分析的に見ると、先行詞thingと後ろに続く不定詞関係節においてwh関係詞と同様にwh移動が行われる(9)。ただそのままだとCP内にwh句と補文標識forが共起し、二重詰めCOMP制約に違反するのでwh削除が行われ(10)、複合名詞句を形成。(wh移動の代わりに音形のない空演算子が移動するという分析も)

(9)*[thing [which for [us to do _]]]

(10)[thing [_ for [us to do _]]]

この複合名詞句からさらにwh句として要素を取り出すとcomplex NP conditionに違反してしまいますが、文頭のwhatはその中の要素を取り出したわけではないので大丈夫ですね。

[It is to不定詞]の形での疑問文だと次のようになります。

(11)What is it important for us to do?

(11)に関して、IP(主述関係)を2つ越えてwh句が移動しているから下接の条件に違反してアウトの可能性もあるのかなと思っていたんですが、文法的にOKみたいです。wh句がCP(補文標識)の指定部を経由して長距離移動(COMP to COMP移動)をしたということですかね。

その上、(12)のように不定詞節の意味上の主語を語彙主語として別に置いても、wh句の移動が可能のようです。

(12)What is it important for us for him to do?

これができるなら[It is to不定詞]の形というのは案外使い勝手いいのかもしれませんね。フォ~フォ~

ところが同じくwh移動が関係しているtough構文では非文になるようなので相違点もあるんですね。

(13)*This work is unpleasant for us for him to do.

今回の記事について、私が所有する書籍や論文で分析や記述があるのはこちら。

tough構文について...
『Essentials of Modern English Grammar』
(著)今井邦彦・中島平三・外池滋生・C.D.Tancredi
1995年 研究社

tough構文、wh移動について...
『英語の主要構文』
(編)中村捷・金子義明
2002年 研究社

標準理論、GB理論、ミニマリストプログラムにおける変形・移動について...
『生成文法の新展開 ミニマリスト・プログラム』
(著)中村捷・金子義明・菊地朗
2001年 研究社

wh移動について...
『On Wh-Movement』
Chomsky, N. (1977) Formal Syntax, ed. by P. W. Culicover, T. Wasow and A. Akmajian, 71-132. NewYork:Academic Press.

最後のチョムスキーの論文は英語の多くの構文や言語現象がwh移動によって説明が可能であると提案したもので、かなりおもしろいです。

ああー、wh移動が関係しているから関係代名詞はwh句なのねといまさら納得したりして。

ぜひ読んでみてください。(私は購読の授業で学生全員が作成したレジュメを読み返しただけですが...)

今回は1つの英文から様々なことをふりかえることができました。

また実際に出会う英文に理論を当てはめて分析していくのはなかなか楽しかった。学生の頃はそんなふうに楽しむ余裕もなかったなと。

追記
NHKのニュースで取り上げられたアカデミー賞中のニューヨークタイムズのCMにtough構文見つけました。

(14)The truth is hard to know.


〈注〉英文(2)~(5)、(8)~(13)は研究論文や辞典などのデータから拝借したものではなく、参考文献をもとに自作したものです。英語話者による文法性の確認はなされていませんので本来はNGです。



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