サウルの息子感想サウルのいるアウシュビッツユダヤ人収容所へ観る者を引き込む緊迫感に打ちのめされる | 映画時光 eigajikou

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浜松シネマイーラの会報にイラスト&コラム連載中。
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『サウルの息子』

原題:Saul fia
英題:Son of Saul
2015年製作 ハンガリー映画

ヒューマントラストシネマ有楽町で鑑賞

浜松シネマイーラでも上映!











↓『サウルの息子』予告動画


映像は同じですが字幕が付いていない方が
映画の本編に近いので公式トレーラーをどうぞ
↓Son of Saul (Saul fia)トレーラー



監督:ネメシュ・ラースロー
編集:マチュー・タポニエ
製作:シポシュ・ガーボル
ライナ・ガーボル
脚本:ネメシュ・ラースロー
クララ・ロワイエ
撮影:エルデーイ・マーチャーシュ
美術:ライク・ラースロー
音楽:メリシュ・ラースロー

出演:ルーリグ・ゲーザ
モルナール・レヴェンテ
ユルス・レチン
トッド・シャルモン
ジョーテール・シャーンドル
アミタイ・ケダー
イエジィ・ヴォルチャク

あらすじ
舞台は1944年10月6~7日の2日間。
1944年10月ポーランド、
アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所に
移送されてくる大勢のユダヤ人。
彼らはナチの軍医により
労働力になるかどうかで選別され、
働けないとされた高齢者、女性、子ども、
病気の人たちはガス室に送り込まれる。
死体は焼却され灰は川に捨てられる。
主人公のサウルはハンガリー系のユダヤ人で
「ゾンダーコマンド」という
ナチが収容者の中から選抜した
死体処理に関わる仕事をさせられる
特殊部隊の一員。
「ゾンダーコマンド」は証拠隠滅のため
数か月の後には殺されてしまう。
サウルはある日ガス室で息が残っていて
運び出された
息子ではないかと思われる少年を見つける
少年は軍医にその場で殺され、
解剖に回される。
ユダヤ教では火葬でなく埋葬するのが正式の葬儀。
ラビ(ユダヤ教聖職者)に祈りを唱えてもらい
埋葬したいとサウルは必死でラビを探し、
少年の遺体も盗み出す。
移送されてくるユダヤ人がどんどん増え
ナチの殺戮もエスカレートしていく。
ゾンダーコマンドたちはひそかに武装蜂起の
準備をしていた...


昨年のカンヌ映画祭の記事でも紹介しました。
映画祭の受賞予想は難しいのですが、
この作品のグランプリ受賞予想をしたら当りました。
その後多くの映画祭での受賞を重ね
ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞も受賞。
アカデミー賞外国語映画賞も受賞確実です。
昨年はゴールデン・グローブ賞もアカデミー賞も
『イーダ』の独壇場との予想が
ゴールデン・グローブ賞は
『裁かれるは善人のみ』になりましたけど、
今年は『サウルの息子』が受賞し、
アカデミー賞も間違いないでしょう。
もし外れたら、
予想している映画サイトや
アメリカの専門家は形無しです。
私も早めに当確出してますが
これは自信あります。(笑)
受賞の問題だけでなく、
『サウルの息子』はきっとこの先
語り継がれる作品になるでしょう。

昨年はドイツ映画『ヴィクトリア』139分、
フィリピン映画『人質交換』97分
という1テイクの長回しで撮りきった
長編映画の力作を観ました。
撮り方論の解説は短めにしますが
『サウルの息子』も長回しが多いです。
画面は昔のスタンダードサイズ(1.33:1)で
彼が置かれている世界、見ている環境が
サウルの無表情な顔のクローズアップや
彼の背中を追ったカットの周囲に
ボンヤリと映し出されています。
(フォーカスやフィルターなどでそう処理されている
撮影はフィルム撮影。)
画面が狭い分見る方の視界も集中されて、
引き込まれ感が凄いです。
観客を収容所の只中に連れ込みたいという
監督の狙いが成功しています。
周囲ははっきりと見えませんが、
とんでもない虐殺と処理が
行われていることは、
鮮明な音や
少ない情報から想像を促されます。
(ヨーロッパ中の様々な言語が飛び交います。
ハンガリー語、ドイツ語、イディッシュ語、
ポーランド語、フランス語、ギリシャ語など。
全く意味が分からない言語も多く
訳されていないところも多いです。
個人的にはもう少し字幕で訳を知りたかった。)
サウルの居る場所、
見ている世界に
もう殆ど暴力的に引き摺り込まれます。
『炎628』
(ソ連映画1985年製作 エレム・クリモフ監督
ベラルーシ(旧白ロシア)でナチス親衛隊の
特別行動隊「アインザッツグルッペン」
(移動虐殺部隊)628の村々を焼きつくし
ユダヤ人を虐殺した事件を描く
トラウマ系の戦争映画)
並みにズシンと来た作品でしたが、
ネメシュ・ラースロー監督が意識した映画は
『炎628』で、クリモフは自分たちより
ずっと凝った撮り方をしていると
話しています。
でも『サウルの息子』も相当凝っていますよ。
ボンヤりとしか映らない所にも
しっかり演出されていることが想像できます。

ラースロー監督は
(1977年生まれ38歳の若手です)
タル・ベーラ監督の『倫敦から来た男』
助監督の経験もあり、
タル・ベーラに師事していますが、
私はアレクセイ・ゲルマンや
アンジェイ・ワイダの
息子でもあると感じました。

サウルは(息子らしい)少年の
正式な埋葬をするために
とんでもない行動にも出て奔走します。
それを見るものは一緒に体験しているような
気持ちになります。
ユダヤのプロパガンダ的な主張をせず、
『炎628』ほどには
観る者に地獄のような思いをさせない演出は
間口を広げていると感じます。

今年必見の1本なので
予定してみえる方も多いと思います。
私もマイベストの上位間違いないです。

私などが語るより、
映画ファンから人気と信頼を集める
町山智浩さんの
たまむすびでの紹介の回を貼っておきますね。

↓町山智浩「サウルの息子」早くも2016年ベスト! たまむすび













左から主演ルーリグ・ゲーザ、
撮影エルデーイ・マーチャーシュ、
ネメシュ・ラースロー監督





撮影の様子↓









2015年第68回カンヌ国際映画祭で↓













2016年第73回ゴールデングローブ賞で↓






主演のサウル役ルーリグ・ゲーザは
1967年ブダベスト生まれ。
詩人で作家。
十代の頃アングラのパンクバンドをしていたり、
ポーランドの大学でポーランド文学を学び、
その後ハンガリー演劇映画大学では映像制作を学び
俳優、監督をし、
次にイスラエルのエルサレムで暮らした後
ブルックリンのユダヤ教のタルムード学院で学び、
ニューヨーク・ユダヤ教神学院卒業と同時に教鞭をとる。
7冊の詩集と1冊の短編集を出版している。
ユニークな経歴の持ち主です。

劇中は殆ど無表情。
それがサウルの
心情の表現です。
素晴らしい演技です。


















↑2015年テルライド映画祭でセス・ローゲン、
レイチェル・マクアダムスと2ショットのルーリグ・ゲーザ




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ぜひ読んで下さい。
















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