ニーゼ感想2015第28回東京国際映画祭コンペ作品。実在の女性精神科医の挑戦を描いたブラジル映画 | 映画時光 eigajikou

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『ニーゼ』

原題:Nise - O Coração da Loucura
英題:Nise - The Heart of Madness

2015年製作 ブラジル映画
2015年第28回東京国際映画祭
コンペティション作品
TOHOシネマズ六本木で鑑賞

昨日観た映画は他にイメージフォーラムで
『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』
『デヴィッド・ボウイ・イズ』




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↓ニーゼ メイキング動画


予告は東京国際映画祭HPの作品紹介ページで見られます。
ここ←クリック


監督・脚本:ホベルト・ベリネール

出演:グロリア・ぺレス
ファブリシオ・ボリヴェイラ
アウグスト・マデイラ

ショック療法が正しいものとされ、
暴れる患者を人間扱いしない精神病院に、
女医のニーゼが着任する。
芸術療法を含む画期的な改革案を導入するが、
彼女の前に男性社会の厚い壁が立ちはだかる。
ユングの理論を実践し、
常識に挑む勇気を持った精神科医の
苦闘をストレートに描く感動の実話。

ベルリネール監督は、
過去にブラジルのストリートを生き抜く盲目の3姉妹や、
飛行機事故で体の自由を失ったロックスターなど、
苦境を跳ね返す人物に焦点を当てた
ドキュメンタリー作品を監督している。
実在した不屈の女性精神科医は、
監督が2本目の劇映画に取り上げるには格好の人物であり、
無意識の領域を重視したユング理論をブラジルに導入し、
芸術療法の分野に功績を残した
ヒロインの姿が見事に再現されている。
保守的な業界の常識に正面から立ち向かうタフネスが、
現代人へのメッセージとして突き刺さる。
ニーゼを演じたクロリア・ペレスは、
5歳でテレビドラマに出演して以来、
40年以上のキャリアを誇る
ブラジルを代表する女優のひとりである。
(東京国際映画祭作品解説より)

男社会でショック療法が主流だった1940年代の精神医療に、
絵画や彫刻で意思疎通を図る
芸術療法を持ち込んだ女性医師ニーゼの奮闘を描く、
実話がベースの物語。
今月初旬の地元リオデジャネイロ国際映画祭で
ワールドプレミアを行ったばかりで、
ベリネール監督は海外での初披露に
「いろいろな国の人に見てもらい、
大切なことを伝えるために睡眠時間を削り、
家族と過ごす時間も減らして映画を作っている。
東京に呼んでいただいてありがたい」と感慨深げに話した。

ニーゼに関する書籍をベースに企画をスタートさせたのが13年前。
当初はドキュメンタリーにする予定で、
撮影のアンドレ・ホルタが監督もするはずだったが、
劇映画としてプロジェクトの規模が拡大していくにつれて
「自分には荷が重い」と降板。
プロデューサーの予定だったベリネール監督が
自らメガホンをとることになった。

クランクイン前の約2カ月は全スタッフ、キャストが
撮影に使用した病棟で寝泊まりし、
精神疾患で入院している実際の患者とも寝食を共にしたという。
主要な患者を演じたのはプロの俳優だったが、
「病室の中には実際の患者もいるし、
スタッフとしても参加してもらった。
順撮りだったけれど、
役者たちがどんどん変わっていってリアルになった。
とてもエモーショナルな瞬間だったよ」
と手応え十分の様子で振り返った。

映画では描かれていないが、
「現実はもっとひどかった」とベリネール監督が言うように、
ニーゼはいわれなき誹謗(ひぼう)中傷を受け、
殺害をほのめかす脅迫状も届いたこともあった。
結果、患者たちによる美術展を開くことで世論を動かしたが、
「メディアに訴えることが唯一の道だったが、
彼女は決してあきらめず全くぶれることがなかった。
すべてを描くことはできないが、
世の中を変えた1人であることは間違いない」
と母国の女傑を称えていた。
(映画.com速報より)

実在した女性精神科医
ニーゼ・ダ・シルベイラ医師(1905年~1999年)
の奮闘が描かれています。
1940年代のブラジルの精神病院では、
患者を大人しくさせようと、
ロボトミー手術や電気ショック療法を行っていた。
ニーゼ・ダ・シルベイラ医師は、
患者をクライアントと呼び、
ひとりひとりに寄り添った人間的な治療を行うため
看護師だけで適当に行われていた作業療法を
彼女が専任になり本格的に行うことにした。
絵画や彫刻の制作に取り組んだり、
音楽や犬と触れ合うことで
クライアントは人間性を取り戻し、
退院できるまで回復した人もいた。
しかし、病院の主流派は彼女の作業療法を認めず、
嫌がらせや、犬を殺害するなどの妨害をしてきた。
病院内では潰されそうなので
美術評論家の勧めもあり、
病院の外でクライアントの作品の美術展を開き、
クライアント制作の美術品を広く観てもらう事にした。

映画はとてもリアリティーがありました。
ニーゼ医師の毅然とした態度には心を打たれました。
実際にニーゼ医師の働いていた病院に
スタッフと俳優が滞在してリハーサルを行ったそうで、
特に入院しているクライアント役の俳優たちの演技は、
芝居とは思えないようなリアルな存在感を出していました。
ドキュメンタリー作品を撮ってきた監督らしい、
抑制の効いた演出とカメラワークでした。


ニーゼ・ダ・シルベイラ医師は、
様々な妨害にあっても、
クライアントに寄り添った活動を続けました。
94歳で亡くなるぎりぎりまで
現役で働いてみえたそうです。
彼女の側で仕事に影響を受けた人たちが
ブラジル各地にちらばり、
隔離病棟に入れない
入院しないという方向で
ブラジルの精神医療のシステムが
変わって行ったそうです。

ニーゼ医師はユングとも交流があり、
スイスで美術展も行ったそうです。
映画のラストに美術展が映されますが、
実際の作業療法によるオリジナルの
絵画や彫刻だそうです。
ニーゼ医師の働いていた病院の美術館に
35万点もの作品が収蔵されているそうです。

ニーゼ医師は人間の無意識に興味があり、
(作業療法のアートで表現されるのは
その一部)
精神医療の変革への挑戦は続き
退院した人たちがデイサービスのように利用できる
施設も作ったそうです。
監督はニーゼ医師の人間の深い所を見ている
姿勢に惹かれたそうです。
ドキュメンタリー作家としての
自分の人間の見方と共鳴したそうです。
劇中権威主義的な男性医師たちが
彼女を見下したり、
彼女の診療を妨害する態度が描かれていますが、
実際には命を脅かすような
もっと苛酷な状況もあったそうです。

私が調べてみたところ、
ニーゼ医師が1926年に卒業した
バイーア大学の医学部のクラス157人中
彼女が唯一の女性だったとのこと。
女性医師がとても少ない時代に、
当時権威があったロボトミー手術や
電気ショック治療に異を唱えて、
人間性のある治療法を希求した
彼女の人生は本当に立派です。
ラストに生前の彼女の映像が流れますが、
楽天的な雰囲気で明るくてチャーミングな方でした。



上映後のトークと質問タイムでは、
監督、プロデューサーが、
この作品を多くの人に見てもらいたいと訴えていました。
完成までに13年もかかった作品で、
その思いは切実でしょう。
監督が「人間の良心は普遍的です。」
と語っていましたが、
この映画が描く人間の良心の普遍性は、
世界中のどの国の人が見ても伝わると思います。
作り手の真摯な熱意を強く感じる作品でした。
上映後会場からは大きな拍手が起こりました。
ただ、とても真面目でテーマも重く
地味な作品ではあるので、
日本で一般公開されるかどうかは分かりません。

東京国際映画祭コンペティションでの
ブラジル映画の上映は12年ぶりだそうです。
これには驚きました。
三大国際映画祭でも中・南米作品は
注目されています。
日本と繋がりの深いブラジルの映画を
東京国際映画祭でも
もっと取り上げて欲しいところです。

実際のニーゼ医師の作業療法の様子↓





私は川崎に引っ越していた昨年10月は
ガンで体の衰弱が進み
殆ど家で寝たきり状態で、
31日に緊急入院でしたから、
東京国際映画祭にはもちろん行けませんでした。
今年はどうしようかな~と悠長に考えていたら、
予定を上手く調整できず、
チケットがもう売り切れていたりで、
コンペ作品で観れたのはこの1作のみ。
今日、新宿バルトでワールドフォーカスの
『灼熱の太陽』
(クロアチア=スロベニア=セルビア合作映画)
を観ますが、今年の東京交際映画祭での鑑賞は
この2本だけになってしまいました。
来年も元気だったら、
早目に予定を立ててもっと観ようと思います。
とりあえず、11月の東京フィルメックスでは
もっと観るつもりです。
(でも、会場の有楽町朝日ホールは
スクリーンが遠くてあまり好きじゃないんだよな~って、
文句言っててもしょうがないですね(^o^;))

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『ニーゼ』ホベルト・ベリネール監督




これらの作品も観たかったなァ...

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地下鉄六本木駅からの地下道には
上の写真以外にも上映作品の
ポスターがずらっとたくさん貼ってありました。

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六本木ヒルズに登るエスカレーター

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会場のTOHOシネマズ六本木までにも全上映作品の
ポスター展示がありました。
すみません、写真両サイド切れてます。↓

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昨日他に観たのは
『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』
15万枚以上の写真残したのに、
誰にも見せなかった
謎の女性ストリート・フォトグラファーを追った
とても興味深く面白いドキュメンタリーでした。

『デヴィッド・ボウイ・イズ』
イギリスの国立博物館ビクトリア・アンド・アルバート博物館で
2013年に行われた
デヴィッド・ボウイの回顧展「David Bowie is」を
紹介したドキュメンタリー。
1月公開時は体調悪くて見られずイメージフォーラムでの
アンコール上映があって良かった!
50枚入りポストカード買っちゃったf^_^;

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『ニーゼ』には、
ニーゼ医師が自宅で
とてもカワイイ子猫を3匹飼っているシーンがあります。
実際にとてもネコがお好きだったようで、
ネットに猫とご一緒に写った写真がいろいろありました。

次は
『シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語』
を書き、
犬つながりで『ベル&セバスチャン』書く予定でしたが、
変更の可能性高いです。
今週はこの後
『灼熱の太陽』
『ボーダレス ぼくの船の国境線』
『徘徊 ママリン87歳の夏』
『名もなき塀の中の王』
『無頼漢 渇いた罪』
『日本と原発4年後』
試写会で『ラスト・ナイツ』
など観る予定です。