「結婚することにしました。相手はまだ決まっていないけど。」
売れない役者がある日銭湯へ行き、浴場で転倒して意識を失っている男のロッカーの鍵を自分の物と入れ替える。
しかも浴場で転倒し病院で意識を取り戻した男は完全に記憶を失っていた。
メソッド演技法とは、役柄の内面に注目し感情を追体験することによって、より自然でリアルな演技や表現を行う演技法・演劇理論。
何故か4年に1度のオリンピックイヤー辺りに作品を発表する『運命じゃない人』の内田けんじ監督の作品は、伊坂幸太郎の映画化作品にも似た雰囲気を持ちつつ、どの作品もジワジワくる笑いとトキメキとトリックがギュッと詰まっていて、爽快で気持ちが良い。
プロの殺し屋の様に手際の良い演出と、練りに練りまくった脚本を書く内田監督は、堺雅人と香川照之という『ゴールデンスランバー』コンビのメソッド演技合戦で観客をミスリードさせながら、水面下でサスペンスとラブストーリーの化学反応で涙腺を狙い撃ちし、『アフタースクール』同様に伏線の巧さが効いた絶妙な着地点に寸分狂わず降り立つという拍手喝采の完全犯罪を披露する。
このスタイルは《内田メソッド》と名付けても良いくらい世界に誇れるレベルに到達している。
鑑賞後にも思い出して笑ってしまう様な小ネタがとても多いし、《お金よりも大事なモノに出逢えるか出逢えないか》という人生哲学と、《何かを始めてみなければ何も判らない》というテーマがグサッと胸に突き刺さる。
誰もが自分で自分の事を判ったつもりで生きているけれど、実は何も判っていなかったり、気付いていないだけだったりする。
もし自分自身の内面に向き合う勇気が無いとしても、未知の世界に飛び込む勇気がチョッピリあれば、未知の自分に出逢える可能性が大いにある。
それこそが心がキューンとするような痛みを感じる《Key of Life》なのだ。
「恋をしてから結婚をするつもり? 若い頃は好きな人を思うだけで心が《キューン》となったことがあったでしょう? でもこのキューンのマシーンって30を過ぎるとたぶん壊れちゃうの。恋はしなくても結婚はできるわよ。」
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