死んでれら | しあわせになりたかったのに

しあわせになりたかったのに

すみませんでした。

 むかしあるところに可哀想なお父さんが住んでいました。お父さんは毎日お母さんに怒られてばかりいました。
「あんた、電気つけっ放しにして! つけたら消しなさい!」
「また服を脱ぎ散らかしてる! パンツとズボンは分けなさい!」
「ご飯食べたら茶碗くらい自分で片付けるの! 何遍言うたら分かるんよ!」
 お父さんは文句も言わず、一生懸命暮らしていました。
 ある日、哀れなお父さんのところに、魔法使いが現れました。
「お前を、お花の国の舞踏会に招待しよう」
そう言うと、魔法でテナントビルを七色に輝くお城に変え、沢山の蝶々をお姫様の姿にしたのでした。
「60分10,000円の魔法じゃよ」
魔法使いは、お父さんに告げました。
 ドレスをまとった蝶々は、次々とお父さんの所に集まってきました。蝶々たちは歌をうたい、華麗なダンスを踊ります。そうして、喉が乾いたのでしょう。「一杯いただきます」と微笑むと、たくさんお花の蜜を吸いました。
「あげは、今日、お誕生日なの!」
 20歳のお誕生日を迎えたアゲハチョウは嬉しそうに、お父さんにお祝いをねだります。お父さんは、おめでとう、と言って頷きました。お花の国の従者たちは、シャンパーニュの花を摘んで、アゲハチョウにプレゼントしました。打ち上げ花火のような音をたてて栓を抜くと、輝く泡のたつ蜜を吸いました。
 お父さんはたくさんの蝶々と仲良くなりました。そのとき、お城の鐘が鳴ります。
「お時間が参りました」
そう言って、お花の国の門番が請求書を持ってきました。とても大きな数字の請求書でした。背の丈が2メートルもある門番は、お父さんに有無を言わせません。お父さんは命からがらお金を払い、領収書をもらいました。
 お父さんはお家に帰って、領収書をお母さんに渡しました。
「まあ! どこでこんなお金を使ってきたの!」
お母さんはまた怒って、お父さんを叱るのでした。
 めでたしめでたし。