海老坂武「祖国より一人の友を」その2 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「当時の加藤(周一)の最大のテーマは封建制の批判だった。仮借ないまでの封建制の批判だった。その一言一言に、そのとおり、中学生、高校生の自分もそう考えていた、と現在の私が反応をしめしたのだ。いや、ときには、これはずっと昔読んだことがある、とさえ思われる文章もあった。もちろんそんなことはないのだが、デジャヴュというものが存在するならば、デジャ・リュ(既読感)というものも語られていいだろう、おそらく加藤の封建制批判は時代の空気だったのだ。その空気を少年の私が吸い込み、ため込み、自分自身をつくっていたのだ。」

 

「なぜ、フランスか、なぜフランス文学か、という問いもここにつながる。ジッドの本や、『チボー家の人々』にぶつかったという偶然があったとしても、私を<西欧>へ向かわせたものは封建制への憎悪だった。親孝行、長幼の序、命令―服従の体系、親分子分の関係、連帯責任、こういった封建的な倫理への憎悪だった。たまたまぶつかった西欧の文学は、こういった憎悪に理があることを教えてくれた。そうではないか。権威的な父親に対するジャック・チボーの反抗はわたしの反抗だったのだ。というわけで、私の加藤周一論は、雑種文化にだけとどめておくことはできなくなった。」