「残された手紙類からゲーテの日常を復元した人がいるが、それによると、ゲーテはすこぶる早起きだった。朝六時にはもう起きていた。夏場の湯治先では五時に起きる。起きるとすぐに珈琲とミネラルウォーターを飲む。ときにはココアか肉入りスープ。十時に朝食で、冷肉とマディラ・ワイン半瓶。昼食は一時か二時で、たっぷり食べた。雄鶏の蒸し煮、マスあるいはカワヒメマス、ヤマウズラ、カモシカの肉、コショウ料理、ベーコン、デザートは菓子に果実。その間にワインをまるまる一本。ときに二本目に手をつけた。」
「夕方、芝居を見にいくと、桟敷席にポンチを運ばせ、幕間ごとにお代わりをした。自宅にいるときはシャンペンにワインが一本。果実酒がまじることもある。社交的な集まりがある時は、当然のことながら一本ではすまなかった。そんな日常から考えると、ゲーテはドイツ文学史上で最大の酒豪になる。ふつう、酒呑み文士の代表格は、『お化けのホフマン』のあだ名のあったE・T・A・ホフマンだが、あきらかにゲーテの方が、はるかに多く飲んでいた。ゲーテは主にわが家で飲んだが、ホフマンは酒場の呑兵衛だったせいで目立っただけ。」
「ワインを飲まないと胃が痛みます」という手紙を妻に出したという。