エッカーマン「ゲーテとの対話」その2 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「私は、いつも、みんなからことのほか幸運に恵まれた人間だとほめそやされてきた。私だって愚痴などこぼしたくないし、自分の人生行路にけちをつけるつもりはさらさらない。しかし、実際はそれは苦労と仕事以外のなにものでもなかったのだよ。七十五年の生涯で、一月でも本当に愉快な気持ちで過ごした時などなかったと、いっていい。たえず石をくり返し押し上げようとしながら、永遠に石を転がしていたようなものだった。私の年代記は、いま言ったことの意味を、はっきりさせてくれるだろう。内からも外からも、私の仕事に対する要請が、あまりに多すぎたのだよ。」


「わたしの本当の幸福は、詩的な瞑想と詩作にあった。だがこれも、私の外面的な地位のおかげでどんなにかかき乱され、制限され、妨害されたことだろう!もっと、公的な職務上の活動から身を退いて、孤独に暮らせたら、私はもっと幸福だったろうし、詩人としても、はるかに多くの仕事をしていただろう。しかし、『ゲッツ』と『ヴェルテル』を書いたすぐあとで、ある賢者の言葉が、自分にそっくりあてはまることが分かったね。つまり、だれかが世間のために何かを行うと、世間は、その人が二度とそんなことをしないように配慮するものだ、というわけさ」


「名声を博したり、人生で高い地位についたりするのは、悪くはないよ。けれども、私が名声と地位によってなしえたことといえば、他人を傷つけないようにと、他人の意見に対して沈黙を守ること、だけだった。おけげで、私は他人の考え方を知りながら、他人は私の考え方が分からないという点で、私の方が得だからいいようなものの、そうでもなかった日には、じつにひどい、ふざけた話さ」



 ゲッツに関する知識

  

  

鉄の手のゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン』(Götz von Berlichingen mit der eisernen Hand )は、1773年 に発表されたヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ による戯曲。史実の人物ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン を題材にした史劇である。ゲーテの処女戯曲であり、友人のヨハン・ハインリヒ・メルク から援助を受けて自費出版されるとドイツ中の注目を集め、ゲーテの名を一躍有名にした。

作中ではゲッツは英雄的な人物として描かれ、若くして死んでいくが、史実のゲッツは「盗賊騎士」と揶揄された血の気の多い人物で80歳過ぎまで生きながらえている。

主人公ゲッツが「Leck mich am Arsch!」(俺の尻を舐めろ! )と叫ぶシーンは有名になり、ドイツ語ではGötz(ゲッツ)という言葉が同じ意味の侮辱語として通用するほどになっている。