エッカーマン「ゲーテとの対話」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「このころ私は初めてゲーテという名を耳にして、その詩集の一巻を最初に手にとった。まず私は彼の小曲を読み、くり返しくり返し読んで、言葉にあらわせない幸福を味わった。今ようやく私は目がさめて、本当の自覚に到達したような気がした。これらの詩歌には、私自身のこれまで知らずにいた内面が反映しているようにも思われた。ここではまた、私という人間の思考や感情では及びもつかないようなよそよそしい学者ぶったところにぶつかることもなければ、私などの思いもよらない異国の古めかしい神々の名前がとびだしてくることもなかった。むしろ私の見出したものは、あらゆる欲望や幸福や苦悩の中にある人間の心そのものであり、目の前にひろがる晴れわたった真昼そのままのドイツの自然であり、やさしく浄化した光につつまれた純一な現実なのであった。」


「私はこの詩集にすっかり夢中になって何週間何か月も生きつづけた。それから『ヴィルヘルム・マイスター』を、ついで彼の自伝を、やがて彼の戯曲作品まで手に入れることができた。『ファウスト』は、初めのうちは人間の本姓のもつ深淵と破壊のおそろしさに尻込みさせられた私も、その深い謎めいた本質にくり返し惹きつけられて、休日のたびに読みふけった。驚嘆と愛は日ましにつのるばかりで、年がら年中これらの作品にひたりこんで暮らし、ゲーテでなければ夜もあけない有様だった。」


 自伝とは『わが生涯から 詩と真実』。しばらくゲーテととりくむ。