五味川純平「人間の條件」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「ある局面での人間の條件を見究めたいという途方もない企みを私はした。大それたことだとは、手をつける前からわかっていたが、あの戦争の期間を、間接的にもせよ結局は協力という形で過ごして来た大多数の人々が、今日の歴史を作ったのだから、私は私なりの角度から、もう一度その中へ潜り直して出て来なければ、前へ進めないような気がした。書き終ってみて、果たして出て来られたかどうかは怪しいものだが、この一年間、作中の人物とともにあの数年間を暗中模索したことだけは事実である。そしてまた、人間が生きていく條件を、後になって整理したり修正したりしても、失われた日々は遂に甦らないということも、悲しい事実である。『人間の條件』という題名は、アンドレ・マルロウの作品にも同名のものがあるので、ずいぶん気になったが、ほかにつけようがなかった。」


 かなり古い作品だが、五木寛之の「青春の門」を読んでいた時の感覚が甦った。