細川護煕「不東庵日常」その6 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「老年 忻予(よろこび)少なし

 況んや復た病んで牀に在るをや

 水を汲んで新花を置き

 慰めを此の流芳に取る

 流芳 祇だ須臾のみ

 我れも亦豈久長ならんや

 新花と故吾と

 巳んぬるから両つながら忘るべし」


「新しい花の香りも年寄った自分もしばしの命、ともに忘れてしまうべしという。一時は位人臣を極めたが、けっして功成り名遂げたわけではない。そんな晩年の王安石の胸中を去来したものはなんだったのだろう。無為の思いもあったに違いない。しかし安石は雑念を振り払うかのように「茅簷(茅葺の庇)相い対して坐すること終日 一鳥鳴かずして山更に幽なり」とその静謐な心境を詠っている。晩年、風雅を友として閑居に生きたその生き方は、愁いを含んではいるものの、その詩を味読すれば、私はそこに枯木のように恬淡とした、なんともいえず慕わしい安石像が浮かび上がってくる。」


北宋の政治家王安石の詩と護煕の思い