細川護煕「不東庵日常」その5 | さかえの読書日記

さかえの読書日記

琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「優れた芸術家の人生や語録を読むことは、退隠の暮らしを送っているわたしにとっても、単なる読書の楽しみ以上に刺激になるし、自らへの励ましでもある。『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』、『ゲーテとの対話』や村上華岳の『画論』は、短文、断章の集積なので必ずしも通して読むわけではないが、折にふれて手にとってみる。『手記』にはレオナルドの人生観、文学、自然、絵画、科学技術などについて深い思想が述べられているが、その『人生論』にはこんな言葉もある。」


「失われうるものを富と呼んではならない。徳こそ本当のわれわれの財産で、それを所有する人の本当の褒美なのである。」


「『ゲーテとの対話』も、いつどこから読んでもいいもので、そこからはゲーテの大きな人格が窺われ、著者エッカーマンの心酔ぶりも純粋で嫌味がない。『いつかは目標に通じる歩みを一歩一歩と運んでいくのでは足りない。その一歩一歩が目標なのだし、一歩そのものが価値あるものでなければならないよ』とか、『結局、もっとも偉大な技術とは、自分を限定し、他から隔離するものをいうのだ』といった一言一言には、経験と思索に裏打ちされたゲーテの叡智が窺われる。またこうもいう。」


「わたしのほんとうの幸福は、詩的な瞑想と詩作にあった。・・・・・もっと、公的な職務上の活動から身を退いて、孤独に暮らせたら、私はもっと幸福だったろうし、詩人としても、はるかに多くの仕事をしていただろう。」


 『ベートーヴェンの生涯』、『セザンヌの手紙』『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』『ゲーテとの対話』、『画論』 次に読む本。