細川護煕「不東庵日常」その4 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「『方丈記』は大雑把にいうと、前半と後半にわけることができる。鴨長明が若い頃に経験した災厄について述べた前半は、後半の草庵暮らしの思想形成の背景説明と位置づけることができるだろう。」


「先学の研究によると、『方丈記』の文章には『華厳経』や源信の『往生要集』『観心略要集』はじめ、さまざまな先行書の影響が見られるという。わたしにはそれらの出典を読み解いていく素養も学識もないが、藤本徳明氏が『池亭記―方丈記―草枕という系譜』を想定し、それぞれの作者である慶滋保胤、鴨長明、夏目漱石が『各時代の代表的知識人で、詩人であり求道者、建築にも興味を有した人(漱石は当初建築家志望だった)の、反俗と『出世間的詩味』(『草枕』)の文学の系譜として見ることもでき、日本文学史の一つの底流を示唆』すると述べているのはたいへん興味深く感じた。たしかに『草枕』の『智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい』は『方丈記』の『人を頼めば見他の有なり。人をはぐくめが心恩愛につかはる。世にしたがへば身くるし。したがはねば狂せるに似たり』と通じる。」


『一つの古典を読むことは他の古典へ導かれることでもあり、読書の輪が広がっていくことは大きな喜びなのだが、この分だと当初掲げた『残生百冊』が二百冊にも三百冊にもなっていきそうだ。私なりの『閑居の栄華』を考えながら、そういった本を読み進めて行きたい。」