「丸山眞男座談セレクション」その2 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「思想は人間の考え方を変えてゆく、考えを変えてゆくことによる革命なんですね。直接政治的現実を変えるという面からみれば、一種の迂路ですね。だからてっとり早くいかないが、そのかわり永続的な効果をもつ。直接的な政治行動によって現実を変えるのは、効果は早いが力関係によってまたすぐひっくりかえる危険がある。暴力革命の後に大きな反動がくるというのは、一つは人々の精神なりものの考え方の変革と、政治的状況変革の間に時間的ずれがあるからです。ロベスピエールが倒されるとテルミドールがくるという調子になる。精神革命として定着していれば、反動に対してもそれだけ強いわけですね。それこそ文化に携わる革命者の本来の任務じゃないのでしょうか。」


「日本では、思想なんてものは現実を後からお化粧するにすぎないという考えが強くて、人間が思想によって生きるという伝統が乏しいですね。これはよくいわれることですが、宗教がないこと、ドクマがないことと関係している。イデオロギー過剰なんていうのはむしろ逆ですよ。魔術的な言葉が氾濫しているにすぎない。イデオロギーの終焉もヘチマもないんで、およそこれほど無イデオロギーの国はないんですよ。その意味では大衆社会の一番の先進国だ。ドストエフスキーの『悪霊』なんかにでてくる、まるで観念が着物を着て歩き回っているようなああいう精神的気候、あそこまで観念が生々しいリアリティをもっているというのは、われわれには実感できないんじゃないんですか。」


「日本では、一般現象としては観念にとりつかれる病理と、無思想で大勢順応して暮らして、毎日をエンジョイした方が利口だとう考え方と、どっちが定着しやすいのか。ぼくははるかにあとの方だと思うんです。だから思想によって、原理によって生きることの意味をいくら強調してもしすぎることはない。しかし、思想が今日明日の現実をすぐ動かすと思うのはまちがいです。」


 丸山と針生一郎(美術・文芸評論家)との「民主主義の原理を貫くために」という座談での丸山の話から抜粋