小室直樹「日本人のためのイスラム原論」その10 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「近代資本主義研究において、最大の難問は『なぜ、ヨーロッパにのみ資本主義が成立したのか』とうことにあった。前期的資本主義から近代資本主義への移行は、何かのきっかけ、触媒によってなされた。そして、そのきっかけとなる『何か』はヨーロッパにのみ存在し、イスラム世界にも中国にもなかった。だからこそヨーロッパにだけ資本主義が起こったのだ。」


「その答えを出したのが、かのマックス・ウェーバーである。マックス・ウェーバーは近代資本主義発生の秘密を、次のように喝破した。『近代資本主義の発展は、資本主義に徹底的に反対する経済思想が公然と支配してきたような、そういう地域でなければありえなかった。(ウェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」)』

資本主義が発展するには、資本主義に『徹底的に反対する』経済思想がなければならない。もっとわかりやすく言うならば、金儲け(利潤追求)を全否定する思想がなくては、本物の資本主義は出てこないというのだ。これほど奇妙奇天烈な説があろうか?」


「彼の説をさらに敷衍して、大塚博士はこう説明する。『通常の考えでは、まず商業が発達し、そして、その商業やその担い手である商人たちを内面から動かしている営利精神、営利原理といったものが社会の至るところへ次第に浸透していくと、その結果として近代の資本主義が生まれてくることになるというのだ、とされている。しかし、歴史上の事実は決してそうはなっていない、と彼(ウェーバー)はいっているのです(前掲)』」


「まことに、いくら驚倒してもし足りない話ではないか。しかし、このように考え抜いて初めて、近代西ヨーロッパに限って近代資本主義が生まれ、中国やインド、ギリシャ、ローマなどのオリエントには生まれなかったかが説明されるのである。」


 「金儲けは絶対に許さない、利潤追求は悪である」という思想をもつもの、それがキリスト教である・・・続く。