小室直樹「日本人のためのイスラム原論」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「イスラム教がわかれば宗教がわかる。まず第一に、イスラム教ぐらい、宗教らしい宗教はない。宗教の模範と言っても、けっして褒めすぎではない。無宗教病の日本人が、宗教の本質を理解しようと思えば、イスラム教ほど好個の材料はないのである。そもそも、イスラムは一神教として先行するユダヤ教、キリスト教の中にある不合理性や欠点を徹底的に研究して生まれた宗教なのだから、その教理は実によく整理されていて、きわめて合理的である。したがって、その内部論理は宗教オンチの日本人にとっても、非常に理解しやすいのである。」


「第二に、イスラムがわかれば、ユダヤ教もキリスト教もわかる。現代日本人が抱える最大の困難の一つは、キリスト教が分からないことである。西洋文明が世界を征服したとさえいえる今日、西洋文明の基本にあるキリスト教を知らずして、世界、ことに欧米とのスムーズな交流を望むべくもない。国際政治しかり、経済しかり、文化しかりである。そのキリスト教を知るには、同じ一神教であるイスラム教との比較が大いに役に立つ。後にも述べるが、キリスト教というのは非常に特殊な宗教であって、その教えは、日本の代表的クリスチャンであった内村鑑三でさえ『奇態な教義』と表現したほどである。クリスチャンならざる多くの日本人がキリスト教の教理を理解するのは至難の業だ。」


「ところが、その奇態なキリスト教の教義も、イスラムの合理的な教義と比較すると、実によく理解できるのである。イスラムが分かれば、キリスト教も分かり、そのキリスト教精神を触媒として誕生した近代資本主義の精神も近代デモクラシーの精神も、自ずから納得できる。現代世界を理解しようと思えば、資本主義やデモクラシーの本質を知っていなければ話にならない。その意味において、イスラム教を知ることは現代世界を知るための糸口になるのである。筆者はあえて言う。すべてのカギは、イスラムにあり、イスラムが分かれば、世界がわかる。」


 久しぶりに小室節を味わう。