井筒俊彦「イスラーム生誕」から | さかえの読書日記

さかえの読書日記

琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「『天地万物の創造主、唯一絶対なる神アッラーの使徒』としてアラビアの一角にムハンマドが立ち上ったのは、キリスト生誕後600年を経てまだ間もないころのことだった。神の使徒すなわち神から特に選ばれて、聖なる召命を受けて人々の魂の救いのために遣わされた人、つまりヘブライ的な意味での『預言者』としての資格において、ムハンマドはかつてイスラエル民族に遣わされた預言者たち、なかでもユダヤ教のモーセ、キリスト教のキリストと自己を同列に置いた。かつてモーセが旧約とともに遣わされたのと同じように、またキリストが福音書とともに遣わされたのと同じように、今や自分が新しい啓示コーランとともに、神の預言者たるべく人々のもとに遣わされた来たのである。」


「その頃すでに衰退の一途を辿りつつあったユダヤ教は別として、これに代って天下を取り、隆々たる威勢を誇っていたキリスト教にとっては、実に思いがけないところから憎らしい邪魔者が現われて来たものだ。西方教会も東方教会も眉を顰めざるを得なかった。最も当時のキリスト教東方教会の教義論争で四分五裂した紛擾状態こそイスラームの勃興に少なからず貢献した責任者なのだが、その問題はここでは触れないことにしよう。とにかく、十字架の光輝あまねく世を風靡して、全世界の宗教的制覇ということさえ必ずしも遠い夢ではなさそうに見えていた矢先、突然大きな障礒がばったりゆくてを遮断してしまったのだから癪にさわった。」


 本書は、「ムハンマド伝」と「イスラームとは何か」の二部からなる。