加藤周一「読書術」から | さかえの読書日記

さかえの読書日記

琴線に触れたことを残す備忘録です。

「私が速読法に熱中し、一日一冊主義を自分に課していたころ、小林秀雄さんが私たちの高等学校へ講演にきたことがあります。私は、一日一冊主義を守るためには、すべての外国語の本を翻訳で読むよりほかないと考えていました。」


「ところが小林さんは、外国語の本を読むのにも、一日一冊を片づけられる程度の速さがなければ、そもそも外国語の知識というものは使い物にならない、という演説をしました。どうすればそういう速さで外国語の本を読むことができるか、教室で読むように、丁寧な読み方をしていたのでは、らちがあかないでしょう。翻訳のある小説を買ってきて、原書を右手におき、翻訳書を左手において、左の翻訳書を一ページ読んでから、右の原書の一ページを読む、字引は使わない、わからないところはとばす――そういうやり方で一日一冊を読んで一年に及べば、自ずから翻訳なしに外国語の本を一日一冊片づける習慣がつく。自ずからその要領をつかむこともできるようになるだろうというのです。私はその方法を実行してみました。これが外国語を学ぶのに、もっともよい方法だというのではけっしてありません。背に腹はかえられなかったのです。とにかく早く読む必要があり、急がば回れを考えるためには、私はそのころあまりにも急ぎすぎていました。私はその後、外国で暮らすことが多くなったので、外国語の本の読み方も変えましたが、もし、そういうことがなかったら、いまでも同じ流儀に従っていたかもしれません。もう翻訳書を片側におく必要はなくなっていたでしょう。しかし、わからないところは、とばしていたのでしょう。しかし、とにかくある程度早く読まなければ、どうにもならぬのです。」


 本書は、加藤が高校生向けに書いた読書術である。