塩野七生「ローマ人の物語14(キリストの勝利)」その2 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「『ミラノ勅令』の全文の翻訳を以下に掲げる。」


「以前から我々(コンスタンティヌスとリキニウス)二人は、信仰の自由は妨害されるべきではないと考えてきた。それどころか、信仰とは、各人が自分自身の良心に照らして決めるべきことと考えてきたのである。それゆえすでに、我々二人の統治する帝国の西方では、キリスト教徒に対しても彼らの信仰を認め、信仰を深めるのに必要な祭儀を行う自由を認めてきた。しかし、この黙認状態が、法律を実際に施行する人々の間での混乱を呼び、ゆえに我々のこの考えも実際には死文化していたことは認めねばならない。それで正帝コンスタンティヌスと正帝リキニウスの二人は、帝国の抱えるあまたの課題を話し合うためにミラノで落ち合ったこの機会に、神への信仰という、帝国民の誰にとっても非常に重要な問題に対しても、明確な方向づけがなされるべきとの結論で一致した。それは、キリスト教徒にも他のいかなる宗教を奉ずる人にも、各人が良しとする神を信仰する権利を完全に認めることである。その神が、なんであろうとう、当事者である皇帝とその臣下である国民の平和と繁栄をもたらすならば、認められるべきなのだ。われわれ二人は、われわれの臣下の誰に対しても、この信仰の自由を認めることが、最も合理的であり最善の政策であることで合意に達したのである。」


「今日以降、信ずる宗教がキリスト教であろうと他のどの宗教であろうと変わりなく、各人は自分が良しとする宗教を信じ、それに伴う祭儀に参加する完全な自由が保証される。それがどの神であろうと、その至高の存在が、帝国に住む人のすべてを恩恵と慈愛によって、和解と融和に導いてくれることを願いつつ。」


「以上がわれわれ二人の決断であるからには、これまでに発令されたキリスト教関係の法(具体的にはディオクレティアヌス帝による弾圧の諸法)は、今日以降すべて無効になる。それは、これ以降は、キリスト教への信仰を貫きたいと願う者には、信仰は何の条件もつけられずに完璧に保証されるということである。しかし、キリスト教徒に認められたこの信仰の完全な自由は、他の神を信仰する人にも同等に認められるのは言うまでもない。なぜなら、われわれの下した完璧なる信教の自由を認めるとした決定は、帝国内の平和にとって有効であると判断したからであり、それには、いかなる神でもいかなる宗教でも、その名誉と尊厳を損なうことは許されるべきではないと考えるからである。そして、これまでに損なう処遇を受けることが多かったキリスト教徒に対してはとくに、没収されていた祈りの場の即返還を命ずることで代償としたい。また、彼ら信徒の属す教会や司教区が所有していながら没収されていた資産のすべても、ただちに返還を命ず。それらが没収後に競売に付され、それを買い取って所有している者には、返還に際しては正当な値での補償が、国家によってなされることも明記する。」


「この勅令で特筆さるべきことは次の二点である。第一に、他の諸々の宗教同様に、キリスト教も公認されたこと。第二に、弾圧時代に没収された教会資産の返還を命じ、それに必要な補償は国家がすると決めたこと。いずれも、ローマ帝国皇帝としては前例のない決断であった。」


 背教者ユリアヌスの前の時代背景である。