塩野七生「ローマ人の物語14(キリストの勝利)」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「紀元355年11月6日、ユリアヌスにとってその日は、24歳の誕生日だった。その日、大勢の人の前に立ったことすらもなかったユリアヌスは、『正帝』コンスタンティウスから、召集を受けた集まったローマ軍の将兵たちに、『副帝(カエサル)』として紹介されたのである。このように正式なローマの軍装に身を固めて兵士たちの前にデビューしたユリアヌスだったが、背丈は並みでも威風堂々とした体躯の持ち主ではない。どちらかと言えば、弱々しい印象を与える。それに、軍装を身につけることからして、その日が初めてなのだ。兵士たちも、笑い出すよりもびっくりして声も出なかったらしい。だが、彼らの最高司令官である皇帝が任命した副帝である。左手で支える楯を右手にもつ剣でたたいて音を出すという、ローマ軍では伝統的な兵士の賛意を示すやり方で、ユリアヌスの副帝就任にOKを出したのであった。そして、副帝に就任した日から1か月も経ていない11月30日、ユリアヌスは、雪の降るアルプスを超えてガリアに向かった。」


「副帝に就任したことと、就任直後の最前線への派遣の裏には、皇后エウセビアの夫への働きかけがあったからだと、小説家たちは書く。ちなみに、ユリアヌスの生涯は反逆的でしかも劇的でもあるので小説の主人公に向いているのか、彼を主人公にした歴史小説は多い。日本にも、辻邦生の『背教者ユリアヌス』がすでにある。アメリカ人の作家ゴア・ヴィダルの『ジュリアン』は、世界的なベストセラーであったというのも納得がいく出来栄えである。これらの小説仕立てにした諸作品に共通しているのが、皇帝エウセビアのユリアヌスに対する思い遣りの深さ、ないしはプラトニックな愛情、なのであった。」


 確か10巻ぐらいまでは読んでいたが、その後離れていた。聖書物語以上に長い道のりになるかもしれない。