小倉紀蔵「入門朱子学と陽明学」その6 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「心の本体とは何か。宇宙の構造はどうなっているのか。社会の秩序はどうあるべきなのか。権力構造の理想型はいかなるものなのか。人間が生きる上で最も大切なことはなんなのか?」


「これらの難問に、中国史上最も完璧な形で答えたのが、朱子学であった。そしてその中心には、『美』という観念があった。心も社会も国家も宇宙も美しくなくてはならないし、また本来、美しいものなのである。この美しさには特徴があった。西洋のような、イデアや絶対的な造物主の似姿、というような美ではなかった。朱子学でいう美とは、宇宙自然の動態的均衡の美しさであった。時々刻々激しく動いている宇宙には、均衡的秩序がある。それを中庸という。それこそが最高の美なのである。この美の素材は、『気』である。だから美を生きるとはいうことは、宇宙全体が今まさに動いているこの躍動の秩序すなわち『理』と一体化できるよう、自分の気をコントロールすることなのである。孟子のいう『不動心』というのは、動きがないという意味ではない。志の力によって心が宇宙全体の動きと一体化することにより、その動的美そのものとなる境地をいうのである。」