「漱石とその時代」その12 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「文科大学では、漱石はこの学年月曜日と火曜日に『ハムレット』を講義し、木曜日に『英文学概説』を講じていた。一月下旬の『英文学概説』の時間に、彼は学生に向かってこんな感想を述べた。」


「私は日本の批評家が西洋のジャーナリストに比べて、社会学と心理学の知識に乏しいことを痛感している。私がこういう講義をしているのは、日本の文芸批評家にこの欠点を反省したもらいたいと思っているためだ。批評家ほど一国の文芸興亡の鍵を握っているものはない。日本の文芸が西欧に比して劣っているのは、明らかに文芸評論のジャーナリズムが低級だからだと思う。」


「これは、学生に概して不人気な『英文学概論』に対する自己弁護でもあったかもしれないが、自作に対する論評がなかなか現れないことに対する苛立ちであったかもしれない。この月、漱石は、『吾輩は猫である』と『倫敦塔』に加えて、さらに『学燈』に『カーライル博物館』を発表し、さながら三頭立ての馬車を仕立てて、一躍文壇に躍り出たという趣がなくもなかったからである。」


 小林秀雄がよぎった。