「漱石とその時代」その3 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「『美人』はおそらく嫂の登世である。登世に対する好意が和三郎の放蕩に対する義憤に刺激されて、金之助の中でかなり急速に恋愛感情に移行して行ったとしても不自然ではない。もともとひとつ屋根の下で、単なる続柄にあるというだけで同居している嫂と未婚の弟という関係は微妙なものがひそんでいる。嫂は兄の妻であり、そのことによって禁忌の彼方にいるが、同時に若い女でありすでに性生活をおこなっていることによって、弟にとっては渇望されいる性の象徴ともなるからである。」


「しかもこの場合、登世が金之助とおない年で3か月若く、夫の和三郎が無能で怠惰であるのに対して、金之助が秀才の誉れ高い帝大生だという対象の皮肉も存在する。恋愛感情は多分登世の側にあったに違いない。問題はおそらく登世が既に成熟した女であり、彼女が夏目家に来てから一年余りのあいだに、金之助の感情がようやくプラトニックな憧れの域を脱して、23歳の青年にふさわしい欲情をともなった恋に変質しはじめていたところにあったものと思われる。」


 漱石の小説は恋愛小説であるという話を思い出した。