丸山眞男「福澤諭吉の哲学」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「福澤をもって単なるヨーロッパ文明の紹介学者とし、彼の思想が欧米学者の著書からの翻訳にすぎないとしてその独創性を否定する見解は古くからある。」


「この見解に対しては、まず、そのいうところの『独創性』とは、具体的に何を意味するかが反問されなければならない。もし独創性という事が、いかなる先人の思想からも根本的な影響を受けずに己の思想体系を構成したという意味ならば、福沢は到底独創的思想家とはいわれない。しかしはたして何人の思想家や哲学者がかくの如き意味で独創的な名に値したであろうか。一個独立の思想家であるか、それとも他人の学説の単なる紹介者乃至解説者であるかということは、他の思想や学説の影響の大小によるのではなく、むしろ彼がどの程度までそうした影響を自己の思想の中に主体的に取り入れたかということによって決まるのである。そうしてこの意味においては福澤の思想と哲学はまぎれもなき彼自身のものであった。たとえば『学問のすゝめ』がウェイランドの圧倒的影響の下に成り、『文明論之概略』の所論の背景にバックルやギゾーが大きな存在となっていることは福澤自らの認めている如くである。」