中野雄「モーツァルト天才の秘密」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「私は音楽プロデューサーという仕事をしていて毎日何人もの音楽家と接するが、そこで実感するのは、音楽家として成功するための必要条件は『音楽が好きであること。特に自分の専攻している楽器が、好きで好きでたまらないこと』である。かつて、本邦有数の人気を誇る女流ヴァイオリニスト二人から全く同じ言葉――『三歳(一人は五歳)のときはじめてヴァイオリンを手にしましたが、以来何十年、ヴァイオリンを弾くのが嫌だと思ったことは只の一度も、一秒たりともありません」という、寸分違わぬ言葉を聞いたことがある。『好きでたまらない』ために、どんなに大変なことも苦労と感じないのであろう。」


「音楽家という職業は、志が強ければ強いほど厳しくて、過酷な世界である。そんな競争社会の中で、努力を楽しみで、学習や技巧の練磨に一切苦痛を覚えないという神経の強靭さ――というよりその異常さは、生得の遺伝子によるものとしか、私には説明ができない。」


「幼いモーツァルトが大人でも苦労する大旅行を続けながら、父の指示によって、次々に多くのことを学ばされていった――その部分だけを切りとれば、まるでいたいけな少年に詰め込み主義で教育したようにも見えるが、おそらくモーツァルト少年にとって、それは『好きでたまらない』音楽を稀有の条件で向上させることのできる、喜びの時間だったに違いない。」


 中野雄は丸山ゼミの出身だが、40年間にわたり音楽を通じて丸山と交流のあった人物である。