「人生の対話」その5 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「日本人は『満場一致』、『異議なし』っていうのが好きな民族なんですよ。とにかく日本人は異質な意見を嫌う。戦時中の『一億一心』が典型的だな。反対は村八分。組織や社会の一員として認めないという、存在自体の否定にまでいってしまうんですからね。だから反対する側は、公式の場で堂々と発言できない。そして、どこか社会の片隅に身を置いて、拗ねちゃう。いわゆる、拗ねものになるんです。劣等感を売り物にして」


「世の中に『満場一致』とか『支持率100パーセント』なんてこと、まず「無い」と言い切っていいんじゃないかな。表面だけの数字だけど、支持率100パーセントはヒトラーとスターリン、北朝鮮の金王朝とイラクのフセイン大統領いぐらいなものじゃないですか。もちろん、反対者を抹殺したり追放したりした上での、人工的な支持率の話なんですがね。」


「人間は一人一人、顔つきが違うように、考え方も、趣味・嗜好も違うという現実に判断の基礎を置かなかったら、民主主義なんてものは成り立ちませんよ。進歩もないんです。福澤諭吉のいっている『多事争論』が原則なんだ。欧米では、そのことを前提にして政治を動かしているから、つまり『意見は絶対に一致しないのが原則だ』と思っているから、多数決って議決の方法が生まれたわけです。本当に正しいことなんて、神様にしか判らないから、とりあえず、賛成者の多いほうの考え方で事を進めてみようって、いわば、便法なんですね、万能の権力付与じゃない。」


「だが、歴史の審判を受けてみたら、多数決で敗れたほうの意見が正しかったということもある。だから、欧米先進国の議会政治では、少数意見を大切にする。『問答無用』などという扱いはしない。また、これはあくまで原則で、あちらでもこの原則が完璧に作動しているわけではないんだけれども、少なくとも良識ある政治家は、『反対派は、何故こういう意見を出してくるのだろう』と、相手の立場の根拠を探ろうとする。『他者感覚』なんだな。他者感覚が発達している国ほど、議会政治はうまくいっているんです。」


 他者感覚も丸山の造語といわれている。