中野雄「丸山眞男 人生の対話」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「丸山眞男という人の発言には、仮にそれが時事問題に対してであっても、常に人間と社会の本質論が立論の背景としてあるんです。だから時間がたって読み直してみても、内容が古臭くならず、新鮮さを失わない。そんな恩師の思想や言説を、弟子たちが語り継いでいる。膨大な量の著作や得意とした座談の公式記録、書簡集、大学講義録までがすでに出版されているのに、更にそこから漏れた彼の断簡零墨や講演記録、座談会の録音テープなどを発掘し、『丸山眞男手帖』という季刊の小冊子を発行し続けているグループがあります。驚くべきことに、そのほとんどが丸山さんの教え子ではない。私学出身の学校教師であったり、デザイン・オフィスのオーナーであったり、要するに市井の知識階級の方々なんです。丸山眞男の謦咳に触れる機会があり、そのまま丸山という人物の信徒という立場に身を置いて、幸福感に浸っておられる。」


「丸山の物の観方、考え方、解決に迫る手法は、その一つが、問題を自分で作り出す能力=すなわち課題発見能力。通称=好奇心。丸山は、常々いわゆる学校秀才に対して厳しかった。教師の出題に正解を提出して優の数を増やしてみたところで、それは『人間として立派だ』という『その人物の存在価値』とは別問題であるという意味の言葉を、彼の口から何度か耳にした記憶がある。」


「その二が、独習能力、つまりひたすらな好奇心。仕事柄、若者と接する機会の多い私が、日頃頭を悩ませている問題が、事あるごとに彼らからくる、『誰に聞けばいいでしょう』、『どなたにレッスンを受ければいいのでしょうか』という質問である。まず自分で考え、工夫をして結論を出そうと試みる姿勢が乏しい人が多すぎる。とにかく、考える前に、正解だけを求めようとする。思考過程が頭脳を鍛えるのだという鉄則を認識していないのである。」


「丸山の教育哲学の神髄は、具体的な事柄を、抽象的思考に置き換える訓練を学生に施し、それを習慣として脳内の思考回路に定着させること。そして、学窓を巣立った後も、独学で物事を学び続ける癖を、在学中の学生の頭の中に叩き込むこと。この二つであったと私が考えている。」


 プロローグのところから、わくわくする。