中野雄「丸山眞男先生との対話二題」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「『いずれ崩壊への道を辿る国が世界に四つあります。』1980年代終わりの頃だったと思う。ご自宅で丸山眞男先生がポツリと洩らされたことがあった。『ソビエト連邦とアメリカ合衆国、それに中華人民共和国とインドです。今日、明日とは言わないけれど、いずれも一つの国家としては存続できなくなる。』――その四か国が、なぜ崩壊の道を辿らなければならないんでしょうか。私は問い返した。」


「ガヴァーナビリティ、つまり統治可能能力の限界という現象が政治の世界にはあるのですね。要素の最大なるものは人口です。一国の人口が二億人を超えたら、一つの政府でそれを統括し続けるのは困難です。それと国土に広さ――人も土地も、巨大化すると自分自身の重みで潰れる。――古代ローマ帝国、アジア大陸に出現した元、神聖ローマ帝国とハプスブルグ家の支配体制――数百年を続いていたのですが、やがて崩壊しました」


「絶対王政から共和制、連邦国家、個人ないし一党の独裁など、国家統治の形態にはいろんなやり方がありますが、これが決定打という理想の統治形態は存在しません。アメリカが理想としている民主主義=共和制は、現在のところ最も無難な統治形態と考えられているようですね。しかし、国が小さいときには共和制による国政の処理はそんなに難しいことではないけれど、大きくなり、豊かになると、国民の貧富の格差が拡大したり、民族問題や宗教問題が発生したりと、単なる話し合いなどでは解決困難な問題が数多く出てくる。これに対処するには、民主的な生ぬるい政権ではなく、強力な「独裁」とまではいなかいけれど、指導力を持った、カリスマ性のある政治家が必要となります。民主主義の限界というか、難しい問題です。」


「英雄のいない社会は不幸だ。しかし、英雄を必要とする社会は、もっと不幸だ。独裁政権には腐敗がつきものなんです。十年間同じ政権が続いたら、内部は必ず腐敗する。仮に独裁者自身が清廉潔白でも、近親者や側近に腐敗菌が蔓延る。しかも、独裁者というのは、常に猜疑心に苛まれていますからね。誰かが自分の後釜を狙っているのではないか。寝首を掻かれるのではないかという恐怖心」


「晩年の丸山先生とこんな会話を交わした夜があり、その2,3年後の1991年12月、ソビエト連邦共和国が突如崩壊した。」



 現在の北朝鮮、中華人民共和国が頭をよぎる。

 中野雄は、「丸山眞男 音楽の対話」の著者