小林秀雄「哲学」から | さかえの読書日記

さかえの読書日記

琴線に触れたことを残す備忘録です。

「哲学という言葉を、初めて使ったのが西周であることはよく知られている。彼は、多忙な役人生活を送って、哲学に深入りすることはなかったが、哲学という言葉のみならず、主観、客観、先天、実在、観念等々の、今日普通に使われている哲学的用語の大部分は、研究家によれば、彼の造語だといわれている。」


「鴎外の『西周伝』によると、西周は、青年時代、徂徠によって、学問上の開眼を得たようである。或る時、病気をして寝込んでいて、本を読みたいと思ったが、寝そべっていては、聖賢の書を読むわけにはいかない。仕方がないから、『徂徠集』という『異端の書』を読んでいて、翻然として悟るところがあった。」


「丸山真男氏の『日本政治思想史研究』はよく知られた本で、社会的イデオロギーの構造の歴史的推移として、朱子学の合理主義が、古学古文辞学の非合理主義へ転じていく必然性がよく語られている。仁斎や徂徠の学問が、思想の形の解体過程として扱われている仕事の性質上、氏の論述は、弁証法的というよりもむしろ分析的な性質の勝ったものであり、その限り曖昧はなく、特に徂徠に関して、私は、いろいろ教えられる点があったが、私としては、ただ徂徠という人の懐にもっと入り込む道をあるかと考えている。」


 「考えるヒント」の中の『哲学』から気になったところを抜粋