「考えるヒント」その6 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「眼高手低という言葉がある。それは、頭で理解し、口で批評するのは容易だが、実際に物を作るのは困難だと言った程の意味だ、とは誰も承知しているが、技に携わる人々は、技に携わらなければ、決してこの言葉の真意は解らぬ、と言うだろう。実際に、仕事をすれば、必ずそうなる、眼高手低という事になる。眼高手低とは、人間的な技とか芸とか呼ばれている経験そのものを指すからである。」


「芸術家は、観念論者でも唯物論者でもない。心の自由を自負してもいないし、物の必然に屈してもいない。彼は、細心の行動家であり、ひたすら、こちら側の努力に対する向こう側にある材料の抵抗の強さ、測り難さに苦労している人である。彼の仕事には、たまたま眼高手低の嘆きが伴うというようなものではない。作品が、眼高手低の経験の結実であるとは、彼には自明な事なのである。成功は、遂行された計画ではない。何かが熟して実を結ぶ事だ。そこには、どうしても円熟という言葉で現さねばならぬものがある。何かが熟して生まれて来なければ、人間は何も生む事は出来ない。」


 「考えるヒント」シリーズの一つ「還暦」という題から抜粋。味読するに足りる内容だ。