高橋昌一郎「小林秀雄の哲学」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「小林には、若い頃から愛人に苦しめられ、一筋縄ではいかない詩人や芸術家たちとの競い合い、結婚を約束した銀座の『魔性の女』に逃げられるとい体験がある。大学教授や出版取締役のような職業を経験する一方で、戦争責任を追及され、骨董で大損し、一升瓶を抱えてホームから落ちて死にそうになったこともある。むしろ、そのような<実生活>から形成された<思想>が、小林の人生において揺らぐことなく一貫していることのほうが、驚異的といえるかもしれない。」


「作家の大岡昇平は、小林を『人生の教師』と呼び、その根底に『忍耐の主体』を見ているのである。<小林は、人生の教師として、人間の生き方、考え方を教えてくれるだけではない。また隅々まで神経が行き届いた文体によって、われわれを諾かせるだけではない。ひとつの男らしい不変の視点に貫かれた作品を、引き続いて生む努力、忍耐の主体として、われわれの前にいるのである>(『人生の教師』)


「夭折した作家の池田晶子は、『小林秀雄 様』と題したエッセイにおいて、<近代日本で、哲学的思索の深さにおいて、あなたと並ぶ人は一人もいません。賢しらな学者や評論家類はいくらも存在しますが、あなたという存在の前には、そんなものの偽者性は一目瞭然ですね。ああ本物とはこういうことなんだ、これが本物の人間の味わいなんだ、考えることと生きることと書くこととの完璧な合致、どんなにおいしく私はそれを味わったことでしょうか>(『人間自身―考えることに終わりなく』)と述べている。」


 難解なゆえに惹きつけられるという感じ