寺田寅彦「随筆集第五巻」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「単調で荒涼な砂漠の国に一神教が生まれるといった人があった。日本のような多彩にして変幻きわまりなき自然をもつ国で八百万の神々が生まれ崇拝され続けて来たのは当然のことであろう。それを崇めそれに従うことによってのみ生活生命が保証されるからである。」


「日本において科学の発達が遅れた理由はいろいろあるのであろうが、一つにはやはり日本人の自然観の特異性に連関しているのではないかと思われる。」


「雨のない砂漠の国では天文学は発達しやすいのが多雨の国ではそれが妨げられたということも考えられる。自然の恵みが乏しい代わりに自然の暴威のゆるやかな国では自然を制御しようとする欲望が起こりやすいということも考えられる。」


「全く予測し難い地震台風によって鞭打たれつづけている日本人はそれら現象の原因を探求するよりも、それらの災害を軽減し回避する具体的方策の研究にその知恵を傾けたもののように思われる。おそらく日本の自然は西洋流の分析的科学の生まれるためにはあまりに多彩であまりに無常であったかもしれないのである。」


 山折哲雄の「近代日本人の宗教意識」の中に寺田寅彦が引用されていたので、寺田の日本人の自然観から抜粋。