小林秀雄「ゴッホの手紙」から | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「ゴッホは死んだ。テオより母親あての手紙の一節―『この悲しみをどう書いたらいいかわかりません。どこに慰めを見付けたらいいかわかりません。この悲しみは続くでしょう、私の生きている限りきっと忘れることができますまい。唯一つ言えることは、彼は、彼が望んでいた休息を、今は得たという事です。…・人生の荷物は、彼にはあんまり重かった。しかし、よくあることだが、今になって皆彼の才能を褒め上げているのです。・・・・ああ、お母さん、実に大事な、大事な兄貴だったのです。』

 兄の自殺という荷は、テオには重すぎた。彼はオランダに帰省すると間もなく発狂し、ユトレヒトの精神病院で死んだ。」


「私は、こんなに長くなるつもりで書きだしたわけではなかった。それよりも意外だったのは書き進んでいくにつれ、論評を加えようが為に予め思いめぐらしていた諸観念が、次第に崩れているのを覚えたことである。手紙の苦しい気分は、私の心を領し、批判的な言辞は私を去ったのである。手紙の主の死期が近付くにつれ、私はもういわゆる『述べて作らず』の方法により他にないことを悟った。読者は、これを諒とされたい。」


 藤村の「ゴッホ 星への旅」もアルルでの書簡等に限定されてはいるが、同じような形式となっている。ストーリとしては、藤村の方が面白い。小林の方は、ほとんど引用だけである。