小林秀雄「人間の建設(岡潔との対談)」 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「ぼくは専門の知識はわかりませんから、ああいう人(アインシュタイン)に興味をもつと伝記を読むのです。ニュートンだってわからぬから「ニュートン伝」を読みます。やはり人間は、科学をやろうが、数学をやろうが、伝記というものがありますからね。そっちから人間ができいますからな。それでいろいろわかるのです。ぼくら言葉のほうの男は、表のほうから入るわけにいかないから、裏口からはいるのです。」


「絵かきはいったい文章がまずいですよ。立派な文章を書いているのはドガとかミレーです。ゴーギャンはしゃれているだけで、つまらんですね。しかしゴッホは絵も文章も両方うまいです。」


「ぼくは批評家になろうと思ったことはない。世間が私を批評家にしたのです。ぼくはただ文章を書いていただけなのです。文章を書く対象として、作家や思想家があったというに過ぎないのです。私は人というものがわからないとつまらないのです。だれの文書を読んでいても、その人がわかると、たとえつまらない文章でもおもしろくなります。石や紙をという物をかいてもおもしろいのと同じように、人間というものはそこに実体が存在するのです。それがないのがあるでしょう。それは私にはつまらない。文章というものもみんなそうなんです。」


 岡潔とは、数学者。対談の中で小林が語ったおもしろいところを抜粋した。