河合隼雄「うさぎ穴の意味するもの」から | さかえの読書日記

さかえの読書日記

琴線に触れたことを残す備忘録です。

「自然科学の発達によって、人間は多くの事象を説明し、理解することができるようになった。人間がどのようにして生まれてくるかという点に対しても、少年たちでさえすでにほとんどその秘密を知っているのではないだろうか。しかし、考えてみると、このような自然科学の知識は、人間というものがどうして生まれてくるかを説明するものではあっても、トム・ロングという個人が、どうしてほかならぬトム・ロングとして、この時この場所に存在することになったかを説明してくれるものではない。私という人間がほかならぬ私として存在するという確信を持つこと、言い換えると、私という人間が生きていく意味を見出すこと、これについては自然科学は解答を与えてくれず、各人は各人にふさわしい方法で、それを見出さねばならない。つまり、個人は各自にかけがえのないものとしての秘密を持たねばならない。」


 「中空構造日本の深層」の中の一つの論文から。トム・ロングとは、フィリパ・ピアスの「トムは真夜中の庭で」に出てくる不思議な秘密をもった少年主人公のこと。