S・S・ラージャマウリ監督、プラバース、ラーナー・ダッグバーティ、サティヤラージ、タマンナー、ラムヤ・クリシュナ、アヌシュカ・シェッティ、アディヴィ・シェシ、ロヒニ、プラバカール、ナーサルほか出演の『バーフバリ 伝説誕生 完全版』。2015年作品。テルグ語版。158分。R15+。

 

 

 

 

古代インドの架空の国々を舞台にした壮大なファンタジー叙事詩「バーフバリ」二部作の第1弾。

 

今年6月に第2弾の『王の凱旋 完全版』が公開されて、日本では昨年に劇場公開された『バーフバリ 伝説誕生』もついに完全版となって帰ってきた!

 

 

 

 

ただし、今回は『王の凱旋 完全版』のような新たな予告篇がなかったり、劇場パンフレットもこの映画のためには作られていなくて、あまり話題になっている様子もないし、どうもイマイチ盛り上がりに欠けるきらいはある。

 

それでもせっかく『王の凱旋』の方も完全版を観たんだし、僕は前篇である本作品は映画館では観ていなかったので、ちょうどいい機会だから最初の公開ヴァージョンではカットされた部分も確認したかった。

 

で、尺の長さもあって一日の上映回数が限られていてなかなか都合がつかなかったんだけど、ようやく観ることができました。

 

まぁ、すでに一度DVDでインターナショナル版を観ているからお話は知ってるし、とにかく景気のいいスペクタクル映画の長尺版を大きなスクリーンで堪能できたことは嬉しかったです。

 

豪傑が主人公の神話の世界を描いたものなので、その内容に細かくツッコミを入れてもあまり意味はないのだけれど、こうやって同じ年に何度も映画館で観ているのだから敢えて気になったところを挙げていこうと思います。

 

あらすじや全体的な内容についての感想は以前の記事をご参照ください。

 

 

まず、最初のヴァージョンの感想でも述べたように、女戦士アヴァンティカの描き方にやっぱり引っかかるものがあった。

 

クンタラ王国の同志たちとともに宿敵バラーラデーヴァが統べるマヒシュマティ王国との戦いに明け暮れていた彼女が、その美しさをバーフバリ(シブドゥ)に見出される、という展開なんだけど、英雄のかっこよさを示すために最初は警戒していたヒロインが強引に抱きすくめられて(時代劇の腰元の「お許しくださいお代官様、あ~れぇ~(クルクルッ)」みたいに着物をひん剥かれて)篭絡されて、今度は熱烈に彼を愛し始める、みたいな描写はさすがにあまりに酷いんじゃないかと。

 

あんなマッチョなイケメンに熱く迫られたい、という人もいるかもしれないけど、もうちょっと描き様があったのでは。

 

確かにアヴァンティカを演じるタマンナーは戦士としての彼女とまるで天女のような彼女の姿や表情にギャップがあるから、そこは「堪んな~!!」(あぁ、親父ギャグを吐いてしまった)って感じで実に美しかったですが。アヴァンティカの戦う姿をもっと見たかったな。

 

 

 

 

あと、場面によっていきなり雪景色になって雪崩が起きたりしてたけど、地理的にあれはどうなってるんでしょうか。無知で申し訳ないんですが、インドって雪降るの?(あ、ヒマラヤがあるか)^_^;

 

 

 

それから、悪役であるバラーラデーヴァなんだけど、もともと(アマレンドラ・)バーフバリとは兄弟のように一緒に生活をしててよきライヴァル同士でもあったのが、どうして青年期になって急にあんなにあくどくなったのかその過程がまったく描かれていないので、唐突に感じるんですよね。

 

 

バラーラデーヴァ役のラーナー・ダッグバーティは大人気で、東京コミコン2018で来日も決定

 

これは勧善懲悪のヒーロー活劇だから、悪役は理由もなく最初から悪い、ということなのかもしれないけど、バラーラデーヴァの父ビッジャラデーヴァは片腕に障害があって、それを理由に悪事を企むようになった、というようにナレーションでは語られている。

 

身体に障害を持つ悪役がいたって構わないとは思うけど、その息子も悪に染まっている、となんの説明もなく描かれると、ちょっとあまりに古色蒼然とした価値観に基づく設定ではないかと。

 

たとえば、少年時代にバラーラデーヴァの中に何か「悪」が芽生えるエピソードを入れるとか、その性格が歪んでいくきっかけのようなものを描いてくれていれば、彼のキャラクターはもっと深みを増したんではないだろうか。

 

続篇の最後には退治されるんだし、あまり悪役を人間的に描き込み過ぎると単純明快な勧善懲悪を楽しめなくなるから、というのはあるかもしれないけど。でも彼らは従兄弟同士なわけだし、そこで二人が「正義=バーフバリ」と「悪=バラーラデーヴァ」に分かれたのはなぜなのか、もう少し丁寧に描いてもよかった気はする。

 

久しぶりに観て、あらためて「北斗の拳」に似てるなぁ、と思った。バラーラデーヴァとバーフバリの関係って、ラオウとケンシロウのそれみたいで。いや、僕が漫画をあまり知らないだけで、こういう筋肉キャラたちが戦う話は山ほどあるんだろうけど。

 

大河ドラマ的で神話的な部分とか続篇でさらに加速していくアクション場面の荒唐無稽さなど、凄く共通するものを感じる。途中で時代が遡ったりまた元に戻ったりするところも長篇漫画っぽい(『王の凱旋』は日本でコミカライズもされてますが、評判はイマイチのようで)。

 

「北斗の拳」もまぁ、ツッコミどころ満載な作品ではあるし。

 

カッタッパがとっととバラーラデーヴァを殺してれば、多くの犠牲を出さずに済んだのに、とも。

 

バラーラデーヴァに25年もの間囚われていたデーヴァセーナが目を血走らせて復讐の言葉を発する場面があって、続篇を観ると彼女の激しい性格は年を取っても一貫して変わっていなかったことがわかる。

 

 

 

続篇『王の凱旋』で、デーヴァセーナは彼女が口にした復讐を完遂する。

 

これは、バラーラデーヴァやその息子のバドラにババア扱いされていたデーヴァセーナの復讐の物語でもあったんですね。

 

後半の敵カーラケーヤは完全に野蛮人として描かれていて、マヒシュマティの国母シヴァガミは実子のバラーラデーヴァと、なき弟にして先王ヴィクラマデーヴァの息子アマレンドラ・バーフバリとの二人のうち、カーラケーヤの族長を殺した方を王位につける、と告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで描かれる戦さは現実の戦争とはほとんど関係がなくて、ビーチフラッグを誰が先に獲るか、というゲームみたいなものに過ぎない。

 

正直なところ、CG丸わかりのVFX映像はヴィデオゲームっぽくて熱狂するまでには至らなかったし、この戦いの場面が結構長いんで何度かうつらうつらと舟を漕いでしまった。

 

あまりに心地よすぎて^_^;

 

敵の捕虜にされた人々を犠牲にして敵陣に突っ込もうとするバラーラデーヴァに対して、バーフバリは民の命を優先させる。そしてそこに注目したシヴァガミは次期国王にバーフバリを据えることにする。

 

カッタッパの話を聞き、自分がかつてマヒシュマティ王国の国王だったアマレンドラ・バーフバリの息子マヘンドラ・バーフバリだと知るシブドゥ。

 

 

 

しかし、父アマレンドラは裏切りに遭ってすでに亡くなっていた。

 

その裏切り者こそ、父の忠実なしもべであったはずのカッタッパであることが本人の口から明かされて、衝撃とともに第1部は幕を閉じる。

 

158分観てきて、最後が「つづく!」というのもなかなかスゴいですが。知らずに観たら呆気にとられるよな。もう消化不良感がハンパない。

 

第1部と完結篇を続けて観たかったなぁ。全部で5時間半ぐらいあるけど(;^_^A

 

日本でこの『伝説誕生』よりも『王の凱旋』の完全版が先に劇場公開された理由は知らないけど、多分、ちゃんと物語が完結する『王の凱旋』の方が1本の映画としてまとまってるし作品としても面白いので、まずはそちらを優先したんでしょう。

 

ほんとは逆の順序でやってくれたら最後は感動が倍増だっただろうけど。

 

だって、また『王の凱旋』を観たくなっちゃったもの。でも完全版はいまだに日本ではDVD化されてないんだよね。そこはなんとも惜しいなぁ(※追記:その後、2021年12月1日にDVDとブルーレイで『伝説誕生』と『王の凱旋』の完全版BOXが発売)。

 

観客の皆さん、微妙な表情で映画館をあとにされてました。そりゃそうでしょ、お話が中途半端なまま終わってしまったんだから。

 

20分長くなった今回加わった場面で僕がわかったのは、マヒシュマティの宮殿の前に建てられたバラーラデーヴァの巨大な黄金像の後ろに、それよりもはるかに大きなバーフバリの巨像がそびえ立つシーン。あれは確かインターナショナル版にはなかったと思うけど(勘違いだったらゴメンナサイ)。

 

ドォォォンンンッ…!!

 

そういえば、最近インドに世界一高い銅像が建ったんですよね。全長が182メートル(台座を入れると240メートル)で、それってハリウッド版ゴジラよりも大きい。写真見たらなんかもうデイダラボッチみたいな感じだった。リアル「バーフバリ像」ですねw

 

こちらは実在の巨大銅像。合成ではないw

 

それから、バーフバリが店で3人の踊り子たちと踊ったり大金を出して皆に酒を振る舞うシーン。

 

 

 

なぜか3人の踊り子たちは白人っぽかったんだけど(顔立ちや肌の色、体型などが主要キャストである女優たちと異なって見えた)、何か意味があるのでしょうか。

 

ハッキリいって、このダンスシーンは無くても物語の進行上そんなに困らない場面だけど、この時点ではバーフバリとバラーラデーヴァは協力し合ってカーラケーヤのスパイを追っていて、そのあとに崖の上でバラーラデーヴァがバーフバリの身体を結んだロープを手放して彼を殺そうとする。

 

さっきも書いたけど、もとは互いに手を取り合っていたバラーラデーヴァとバーフバリがやがて敵対するようになる過程をもっと丹念に描いていたら、カーラケーヤとの戦いにおける両者の王位争いも観ていてさらに燃えただろうし、二人の兄弟愛が壊れていく哀しみも表現できたんじゃないだろうか。

 

対立の構図は単純なものだからこそ、血族同士の骨肉の戦いは観る者の共感を呼ぶものであってほしい。

 

いろいろ言ってきましたが、今年1年で僕はこのシリーズをヴァージョン違いで劇場で計3回観てるわけで(DVDも入れれば4回)、そんな作品や機会は今後もそうあるものではないだろうから、これは貴重な経験だなぁ、とつくづく思います。

 

映画の序盤で、バーフバリの手で運ばれた御神体に永遠に滝の水が降り注ぐことになる。そして『王の凱旋』の最後に打ち倒されたバラーラデーヴァの黄金の像は河を下り、あの滝の下に流れ着く。

 

それはまるで繰り返し上映されて僕たちが目にするこの2本の映画のようだ。

 

一年の初めに後篇を観て、終わりも近づいた時期に前篇を劇場で観ることになった「バーフバリ」は間違いなく僕にとって今年観た映画の中でもっとも印象に残った作品だし、多くの映画ファンにとっても忘れられないイヴェント・ムーヴィーになったでしょうね(^o^)

 

今後も2018年は「『バーフバリ 完全版』が公開された年」として記憶されるでしょう。

 

ジャイ!マヒシュマティ!!(マヒシュマティ王国、万歳)

 

 

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