フェデ・アルバレス監督、ディラン・ミネット、ジェーン・レヴィ、ダニエル・ゾヴァット、スティーヴン・ラング出演の『ドント・ブリーズ』。2016年作品。PG12。

 

デトロイトに住むアレックス(ディラン・ミネット)は、警備会社に勤める父親の合鍵を使って仲間のロッキー(ジェーン・レヴィ)とマネー(ダニエル・ゾヴァット)とともに他人の家に空き巣に入っては盗んだ品物を金に換えていた。やがて3人は、娘が事故に遭い多額の示談金を受け取ったという視覚障害者の老人の家に忍び込むのだが…。

 

去年、映画評論家の町山智浩さんの解説ネタバレ要注意)を聴いて、12月に公開されると評判もいいようなので気になっていました。

 

作品のプロットについてはすでに解説で知っていたから、モンスターとか超常現象の類いは出てこないけど、つまりヴァイオレンスやグロ入ってるんだろうな、と。

 

実は僕はホラーとか怖い映画って普段ほとんど観なくて、2015年にM・ナイト・シャマラン監督の『ヴィジット』を観て大変後悔した経験がありまして^_^; 特に驚かし系というか、急に画面に何かが飛び出してきてデカい音が鳴るタイプの映画はほんとに苦手なんです。だから今回もちょっと不安だったんですよね。

 

 

まぁ、『ヴィジット』に後悔したのは内容のせいもあるんですが。映画そのものはよく出来てたと思います。だからこそリアルすぎてトラウマに(;^_^A

 

なので本気で嫌ァ~な後味が残る映画だったら困るな、と。金払って不快な思いしたくないんで。でも解説を聴いてると自分と接点のある内容には思えなかったし、友人からも勧められたので、年が明けた先日ようやく観にいってきました。

 

平日の夜の回にもかかわらず客席は結構混んでて、カップルや年配のお母さんと来てる若い女性とか、僕みたいなお一人様とか、上映館も限られてるんでこの作品目当てにわざわざ足を運んだ人々が集っていて、あぁ、人気あるんだなぁ、と。

 

結論からいうと、普通に面白かったです。映画館で観られてよかった。

 

カップルや友人同士で観にいったら、鑑賞後に盛り上がるかも。

 

製作がサム・ライミなので、ちょっと『スペル』を観た時のこと思いだしたりもした。

 

 

 

ただ正直に言うと、僕はちょっと途中で冷めちゃったんですよね。

 

上映時間は88分と短めなんだけど、それでも恐怖が持続しなかった。

 

まわりに他のお客さんが大勢いたからってのもあるだろうし嫌な後味が残らなかったのはいいんですが、個人的にはなんで世間でこんなに話題になったのかわからない。

 

なので、けっして絶賛ではないです。

 

では、これ以降は早速ネタバレを含みますので、未見のかた、これから鑑賞予定のかたは、映画をご覧になったあとにお読みください。

 

 

この映画ってわりと出オチ感が強いというか、一発ネタの部分が大きい。

 

つまり、盲目の老人の家に忍び込んで彼を眠らせて大金をせしめようとしたら相手が屈強な元・軍人だった、という、ドリフの「もしもコント」みたいな話でw

 

だから、そのワン・アイディアでどれだけ引っ張れるかにかかっているんですが、二階建てで地下室もある一軒家とはいってもその広さは限られてるわけだし、泥棒三人組のうちの一人は速攻で殺されちゃうので、要するに爺さんが残りの二人を追っかけまわすというのを延々やってるだけなのだ。

 

申し訳ないけど、途中で飽きてしまった。

 

『ヴィジット』だって限られた空間で登場人物もわずかだったけど、撮影に凝っているので不穏な空気が全篇に渡って漂っていて片時も気を緩められないのと、とにかくガチでヤバい人たちに追われる恐怖(しかも追われるのは子どもたちなので余計)に観終わってヘトヘトになるぐらいだった。

 

でも、この『ドント・ブリーズ』の映像には、そこまでの緊張感はなかった。

 

途中でアレックスがとどめを刺されたような場面があって、どうやら女性のロッキーこそがこの映画のほんとの主人公らしい、というのがわかってくると、逆にどこか安心感というか、気が抜けたような感じになって一気に怖くなくなっちゃったんですよ。

 

本来なら若い女性が助けのいない場所に一人だけ残されたらそれこそ絶体絶命だけど、なんとなく無事そうな気がしてきたし、もしも彼女が最後の最後に殺されてしまったとしても、やはりこの手の映画としては想定内でさほどショックは受けなかっただろうと思う。

 

この映画は広義の意味での「ホラー映画」なんだろうけど、終盤あたりになるとロッキーはアクション映画で敵と戦ってるヒロインみたいになってきて、「殺されてしまうかもしれない」「悲惨な結末になるかもしれない」という懸念がどんどん薄れていく。

 

あんだけボッコボコに殴られて、引きずられて地面に血糊がべったりつくほど出血してても元気、というのもかなり無理があるよーな。

 

筋肉爺さんが恐怖の対象でなくなると、もう「無敵鋼人ダイターン3」の筋肉執事ギャリソン時田にしか見えなくなってきた。

 

 

 

 

あるいは、老人版ホーム・アローンw

 

ちなみに、老人老人って言ってるけど、演じているスティーヴン・ラングは『アバター』で青い巨人ナヴィたちと戦う悪い軍人を演じてた人。

 

そこまでジジイじゃないんだよね。それでも現在60代半ばだそうですが。

 

確かに、地下室に若い女性が囚われていて、それは以前、盲目の老人の娘を事故で死なせた加害者であったこと、そしてなんと、老人は娘の代わりの子どもをその女性に産ませようとしていたことが判明するあたりはなかなか胸糞悪い展開で、この映画のハイライトではある。

 

あの部分でかろうじて、この映画は観るべきところがあったと言えるかもしれない。

 

老人の○液とその中の○毛が画面に大写しになると、さすがに「勘弁してくれ」と思ったけど(+_+)

 

それにしても、あの老人はどうやって標的の女性を捕まえてあの地下室まで運んだのだろうか。目が見えないのに。

 

この映画の冒頭でこの盲目の老人が若い女性を引きずってる姿が映るんだけど、たまたま読んだ見知らぬ人のブログの感想には、この引きずられているのは事故の加害者の女性だと書いてあった。

 

僕はてっきりあれは映画の後半で車から出たところを老人に見つかって気絶させられたロッキーだと思っていたので(“フラッシュフォワード”という奴ですね)、「あれ?そうだったっけ」と自分の記憶に自信が持てなくなった(追記:やはりあれはロッキーだったようです)。

 

ともかく、全盲の老人が屋外で相手を特定して捕まえるなんて、ちょっとどころではなくかなり無理があるでしょう。

 

娘が亡くなったのは最近だという話だし、彼はイラク戦争(~2011年)で失明したらしいから、目が見えていた頃に捕まえたわけではなさそうだし。

 

あと、どんだけ大量の自分の精液を溜め込んでたんだよ(;^_^A

 

そうやってツッコミを入れだすとどんどん設定や展開に無理が生じてきて、そもそもありえない話だということがハッキリしてくるから、素直に怖がれないんですよね。

 

むしろ、視覚障害者のことを倫理観の壊れた凶悪なモンスターとして描いてるわけだから(こういうこと言うと「娯楽映画にそういう倫理観とか持ちだす奴、超ウザい」みたいに言われますが)、これは結構ギリギリだと思うんだよな。

 

この映画にリアリティを感じた人は、こういうことはあるかもしれない、と考えたってことでしょ?

 

「視覚障害者を差別してる」なんて言いたくはないけど、目が見えない人を一体なんだと思ってるんだ、と若干憤りを感じなくもない。聴覚が異常に発達している、という設定らしいけど、だからってなんで警報機が鳴ったら耳をふさいで弱りだすのかわかんないし。

 

耳がいいはずなのに、息止めてたらすぐそばにいても気づかなかったりする。キョンシーみたいだな。

 

要するに、相手にハンディキャップがあることで弱点が作れてキャラクターとしては面白くなる、ってことだろうけど。それはわかりますけどね。

 

同じように人殺しを描いても、それを「座頭市」のように善玉風に描いたら印象はまったく異なるでしょうし(『ローグ・ワン』でドニー・イェンが演じてたのもそういう役ですが)。

 

でも『13日の金曜日』のジェイソンみたいな怪物は空想の産物だけど、視覚障害者は現実にいますから。この映画では、そういう人をとんでもない奴として描いてるわけでね。

 

もちろん、だからって世の中のすべての目の不自由な人たちがヤバい、なんて思う奴はいないだろうし、障害者を凶悪犯罪者として描いちゃ絶対ダメだとも思いませんが、それでも「この映画の発想が秀逸!」とやたら褒めてる人たちは、自分たちが無邪気に面白がってることの中身にちょっとは自覚的になってもいいんじゃないだろうか。

 

つまり、視覚障害者は別に超人ではない、ってこと。

 

目がまったく見えない人が若い女性を捕まえて監禁したり、ムリヤリ孕ませたりすることなんてできないんだよ。

 

現実の世の中では逆に本人が危険な目に遭う可能性の方がよっぽど高いわけで。

 

あなたがたが「リアル」だとか「怖い」と感じたことの中には、あなたたち自身が意識していない、この映画の内容以上に非常に不快な偏見が含まれているかもしれないのだ。

 

…偉そうなことホザいてますが、最初に書いたように僕はこの映画を普通に楽しんだし、スティーヴン・ラングの筋肉爺さんぶりはハマりすぎてて笑えもするんで、これからもネタにさせてもらうつもりです。

 

この映画は、これまでは映画の中で弱い立場として、あるいはまるで「聖人」のように描かれがちだった視覚に障害を持った人を「超極悪」に描いた、という点では「斬新」かもしれないし、座頭市が許されるんならこの映画の鬼畜ジジイのキャラだって許されるだろう、という理屈もわからなくはない。

 

どちらも現実にはありえないファンタジーであり、健常者と呼ばれる人々の中にもいろんなタイプの人間がいてフィクションの中でさまざまなキャラクターとして描かれるように、全盲でめっちゃ強い元・軍人で地下室で若い女性を妊娠させて子どもを産ませようとしているキ○ガイが登場する映画があったって別に構わないだろう。

 

ただ、僕はこの映画をそんなにめちゃくちゃ面白いとは思わなかった。それだけのことです。

 

なんというか、作り手が一所懸命この話を成り立たせるためにあれこれ奮闘しているのが観ていてわかっちゃうんですよね。

 

助けを呼ぶチャンスは何度もあったのに、警察に踏み込まれたら自分たちが泥棒として捕まっちゃうから、と躊躇したり、命がかかってるんだからそれどころではないだろうに。

 

ロッキーを演じるジェーン・レヴィは僕は好みの顔の女優さんだし熱演していたと思うんだけど、さっきちょっと書いたようにアクション映画のヒロインみたいなタフさを感じさせるので、この人は助かりそうだな、と思えてきちゃって。

 

実際助かりますし。

 

で、盗んだ大金で妹と街を出ることにするんだけど、最後に死んだと思っていたあの老人が生きていたことをTVのニュースで知る、というオチ。

 

普通、ですよねσ(^_^;)

 

アレックスを演じているディラン・ミネットの、イケメンではあるんだけど微妙にイラッとさせられるあの笑顔に見覚えがあったんだけど、コディ・スミット=マクフィーとクロエ・グレース・モレッツ主演の『モールス』でイジメっ子を演じていた人だった。あぁ、あいつか。

 

僕はホラー映画が大好きな人間ではないのでいちいち難癖つけるようなことを書いて申し訳ありませんでしたが、でもサム・ライミがそうだったように低予算のホラー映画から出発して大成していく映画監督は多いから、もしかしたらこの監督さんもそうなっていくかもしれないですね。

 

 

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