製作・監督・脚本・主演:ジョン・ファヴロー、出演:エムジェイ・アンソニージョン・レグイザモソフィア・ベルガラボビー・カナヴェイルオリヴァー・プラットスカーレット・ヨハンソンロバート・ダウニー・Jr.ダスティン・ホフマンの『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』。2014年作品。PG12



ロスの有名レストランに高名なグルメ批評家ラムジー・ミシェル(オリヴァー・プラット)が来ることになり、シェフのカール(ジョン・ファヴロー)は新しい料理を試そうとするが、オーナーのリーヴァ(ダスティン・ホフマン)からこれまでのメニューのままでいくよう指示され渋々従う。ところが代わり映えのしない料理を食べたラムジーがネットに酷評を載せ、逆上したカールはTwitterで反撃。新しいメニューで再挑戦ということになるが、頑なに従来のメニューにこだわるオーナーと決裂したカールは店をあとにする。ラムジーを相手に店で大暴れしたカールはどこの店からもお呼びがかからず、離婚した元妻のイネズ(ソフィア・ベルガラ)の元夫で企業家のマーヴィン(ロバート・ダウニー・Jr.)に助けを求めることに。


アイアンマン』の監督で俳優のジョン・ファヴローが一人で何役もこなした、とても“おいしそうな映画”ということで。

実際おいしそうだったし、観終わってキューバサンドがモーレツに食べたくなった!(^o^)

お話は単純。

有名レストランのシェフを辞めてフードトラックキューバ風サンドイッチの販売を始めた主人公が、息子とともに働きながら親子の絆を深めていくロードムーヴィー。

まぁとにかく、空腹で観ると身体に毒な映画です(^_^A


僕はこれまでジョン・ファヴローが出演した映画は、本人が監督した「アイアンマン」シリーズ(3作目は別の監督)ぐらいしか覚えていないんですが、どうやら『バットマン フォーエヴァー』や『ディープ・インパクト』、『デアデビル』などにも出てたそうだから、知らずに以前から俳優としての彼の姿を見ていたんですね。

あぁ、そーいや『ウルフ・オブ・ウォールストリート』にも出てたっけ。これは監督として知ったあとだけど。

恰幅がいいんでギャング役とか演じてそうだけど、これまであまり怖い役はやってないみたい。

そんな感じで今回も両手にタトゥーの入った強面のおじさんでキレるとチョコレート握り潰して怒鳴ったりするけど、基本明るくて息子思いの気のいいお父さん役。

すでに町山さん宇多丸さんの解説でご存知のかたも多いでしょうが、これは一人のシェフの再起の物語であると同時に、サブテキストとしては「映画監督ジョン・ファヴロー」その人の物語でもある。

ジョン・ファヴローは2008年の『アイアンマン』で大ヒットを飛ばし続く2作目のメガホンもとるが、ヒットはしたものの批評家からのウケは芳しくなかったようで、その後は3作目の監督を降りたり(出演はしている)、2011年の監督作『カウボーイ&エイリアン』の評判も微妙だったりといろいろあって、結局、再び初心に返って撮ったアメコミヒーローとは無関係なこの小品がアメリカで大ヒット、日本でも多くの人々に支持されるというサクセスストーリーを実現。

映画はまさに彼のその経験を、まんま料理人の話に置き換えたものといえる。

アベンジャーズ』の二人、ロバート・ダウニー・Jr.とスカーレット・ヨハンソンが援軍として参加。

ダウニー・Jr.はアイアンマンとほぼ同一キャラ。


社長と運転手、じゃなくてシェフ。


確かにある時点からはスルスルとすべてがうまくいって大団円、という展開はちょっと都合が良過ぎるんじゃないか、と思えなくもないけど、演じてる本人がそれを現実に叶えちゃった人なんだから、これ以上の説得力はないんじゃないか。

映画をハシゴした2本目だったこともあって(1本目は『イミテーション・ゲーム』)正直途中でちょっとウトウトしかけたりもしましたが、でも心地良い時間でしたよ。

1本目が悲しい話だったんで、こちらはひたすら陽気でゴキゲンな映画だったことがバランス的にもよかった。

劇中で流れるダンサブルな音楽の数々に、思わず客席でちょっと身体揺らしてリズム取りそうになってしまったぐらい。

ご覧になった皆さんが仰ってるように、いい音楽と旨そうな食べ物は人を幸せな気分にしますね。






Twitterの知識が皆無なカールがそのわりにはスマホを易々と使いこなしてたり、だいたいなんであんなにいい関係の奥さん(ソフィア・ベルガラ)と別れなきゃいけなかったのかよくわかんなかったり(しかも恋人がスカーレット・ヨハンソンってナメとんかい!と^_^;)、息子だって聞き分けのいい子で父親に懐いてるしカールだって自分で言うほどダメ親父じゃなくて最初から家族関係わりとうまくいってんじゃん、などと気になるところもある。




どん底まで落ちた男が這い上がる話にしてはそこまで悲壮感がないんで「おとぎ話」という評価があるのもわかるんだけど、でも別に重い話やリアリズム一辺倒の作品を目指してるんじゃないんだろうから、合間合間に挟まれるおいしそうな料理に心の中で舌鼓を打ったり父と子のふれあいやジョン・レグイザモ(元ルイージ)演じる助手の人の良さにほっこりできればいいんじゃないかな。

料理がおいしそうな映画ってこれまでにもいろいろあっただろうけど、僕は2年ほど前に観たフランス映画『大統領の料理人』をちょっと思いだしました。

この『シェフ』とはタイプの違う作品で(あちらは実話ベース)良くも悪くもフランス映画っぽくてハリウッド的な大団円もなくあっさりとした終わり方だったんだけど、とにかく映しだされる料理がほんとにおいしそうで観ていてヨダレ出そうでした。

フランス料理といっても澄ました高級料理というよりは(いい食材を使ってるから安くはないが)郷土料理なので、見た目も親しみやすかったし。

もしご興味を持たれましたら、どうぞご覧になってみてください。

以下、ストーリーのネタバレがありますのでご注意ください。



さて、この『シェフ』もまた主人公は有名レストランで働く腕利きのシェフだったけど、映画の中で彼が取り組むのはキューバサンドイッチ。

それ以外でもベニエクロックムッシュなど、どれも気取らないファストフード。

ベニエといえば『プリンセスと魔法のキス』もニューオーリンズが舞台だったけど、あの映画ではヒロインの得意料理だったベニエを今回カールとパーシーの親子が口のまわりを真っ白にして食べてて、いつか僕もカフェオレと一緒に味わいたいなぁ、と思いました♪

カールお手製のパスタを食べるスカーレット・ヨハンソンもエロうまそう。

 
うまそ~(^o^)

あと、一晩じっくりローストした肉をナイフで削り取りながら食べるバーベキューとか、肉好きとしては堪らんかったね。アイム・ハングリー!

 
ねぇねぇ、早く僕にも食べさせて!

 


批評家の来店を知り新メニューで挑戦したいカールに対して、厨房には口を出さない、という約束を反故にしてオーナーが「今までのメニューのままでいけ。嫌なら辞めろ」と二者選択を迫る。

この時妥協してしまったために批評家にボロクソに書かれてしまうわけで、ダスティン・ホフマン演じるオーナーはそのことについてカールに謝罪もしないし、再挑戦の時にもバカの一つ覚えみたいに「同じメニューで」と繰り返すばかりで観ていてイライラさせられる。

ただ、彼がそうやって新メニューに慎重なのはこれまでにカールの希望で結構な出費をして厨房を改装したにもかかわらず、その料理があまり売れなかったこともある。店のオーナーとしては売れるかどうかもわからない料理よりも定番の人気メニューを続けたい、というのもわからなくはない(批評家だけ特別メニューというわけにはいかなかったのだろうか)。

実際、批評家に酷評されたからといって客足が減って店が打撃を受けたわけでもないようなので、経営者としては繁盛さえしていれば誰が何言おうが知ったこっちゃないということなんだろう。

ここでカールが問題にしているのはシェフとしてのプライドを傷つけられたことであって、店が実害を被ったことではない。

「ここは私の店だ」というオーナーの言い分は間違ってはいない。

でも、これを「映画」に置き換えるとちょっと同意しかねるんですが。

そりゃフランチャイズ映画も必要だとは思うけど、スポンサーやプロデューサーが監督の意向を無視して口出し過ぎた映画にろくなものはないわけで。

で、こんなところでやってられるか!とカールは店を辞めるが、気が治まらない彼は息子のパーシーに教わったTwitterで自分をコキ下している批評家ラムジーにケンカを売る。それも下ネタ込みで挑発するという一番やっちゃいけない方法で。

このあたりクスクス笑えるんですが、でもあんなふうにせっかく自分んちで新しい料理を作ったんなら批評家の前で醜態晒すよりもまずそれを彼に食わせてやればいいのに。

Twitter上でフォロワーが何万人もいる有名批評家を相手にケンカを売ったことを仲間たちやパーシーは心配するけど、炎上というよりは「祭り」状態になって名誉挽回するには打ってつけのチャンスだったのになぁ。

だけどそれじゃあ、フードトラックでの商売に繋がらないからねw

可笑しかったのが、カールが辞めたばかりのレストランで批評家に悪態をつく場面が、そのまんま自分の映画をクサした批評家たちに対するジョン・ファヴローの「一度言ってやりたい本音」に思えたこと。

自分では何も作らないくせに偉そうに悪口言いふらしやがって。そっちはただ食って旨いとか不味いとか好きなこと言ってりゃいいが、こっちは生活が懸かってんだ。

批評家を目の仇にするクリエイターすべてが一度は思ったことなんじゃないだろうか。

僕は普段からブログでプロの映画監督が撮った映画に対してド素人のくせして偉そうに感想述べてますから、このカール=ファヴローの怒りには苦笑いするしかないんですが、でもまぁ、自分で作りもしない奴に上から偉そうに言われたくない、というのはそりゃそうだろうな、とは思う。

特に影響力のある人、あるいは密かにリスペクトもしていた人に自分の作品をクソミソに言われたら、誰だって心中穏やかではいられないだろう。

でも作り手の事情(この場合は、オーナーに命じられて新しいメニューを断念したこと)は客には関係ないんで、プロならそこはグッとこらえて作品で見返してほしいところですが。

そしてカールは、最終的にはまさに彼の作った料理でくだんの批評家を下す。

それが小難しい料理じゃなくてシンプルなキューバサンドというのがイイですよね。

それにしても、シェフって料理作るだけじゃなくて厨房の中も自分で作っちゃうのね。すべてのシェフがそういうわけではないんだろうけど。

サンドイッチが焦げてしまった時に「これぐらいお客に出しても大丈夫だよ」というパーシーをトラックの裏に呼びだし、カールは料理人としての矜持を息子に伝える。

 


父がこれまで息子にねだられても食材の買い出しに連れていかなかったのは、「仕事」としてやるなら遊び半分にではなく真剣に臨むべきだと考えていたから。

カッコイイぜ、ダディ!(^o^)


最初に書いたようにお話自体には特にヒネリはないので、予定調和といえばその通りかもしれない。だいたい予想してた通りの結末が待っている。

フードトラックでの旅を通じて父親と息子はさらに深い絆で結びつき、元妻とももしかしたら元の鞘に収まるかも、という予感(スカヨハは?)。

天敵だった批評家が現われてカールのキューバサンドを絶賛、なんと彼に店を提供してくれることに。そこでこれからは自分が作りたい料理を作っていける。めでたしめでたし。

カールが途中で決定的な危機に陥るような展開はないし(息子とケンカしてもすぐ仲直りするし)、だから彼は最初から負け犬なんかじゃなくて、ちょっと落ち込んだりもしたけれど俺は元気です、みたいなお話なんだよね。

カールの料理の腕がいいのは確かなんだから、あとはその腕が活かせる場所が見つかるかどうかだけなわけで。なんだかんだいって部下たちからも慕われてるし。

そこんところで映画として物足りなく感じた人の気持ちはわかる。

でも、登場人物たちがみんないい人でこんなに嫌味がない映画ってのもなかなか珍しいんではないか。

誰もわかりやすい悪者にされていない。スマホで写真撮りまくるおまわりさんもw

無理解なレストランのオーナーでさえも、彼の言い分には一理あるように描かれている。

オーナーのリーヴァを演じているダスティン・ホフマンは昔は結構主役を務めていたのが、最近は脇に回ることも多くて時代の流れを感じます。

カールの弟子その2を演じるボビー・カナヴェイルは昨年はウディ・アレン監督の『ブルージャスミン』、つい最近『ANNIE/アニー』にも出てたけど、売れっ子ですね。

パーシー役のエムジェイ・アンソニー君(イケメンに成長することは確定ですな)も演技が達者で。台詞廻し(って英語わからんけど)や立ち居振る舞いがとても自然なんだよね。

小学生の息子の方がお父ちゃんよりもネットに詳しい、というのもそれっぽかったし、パーシーの機転でフードトラックにお客さんたちが列を作るところも小気味良い。

夏が終わって学校が始まるとパパとはまた離ればなれになる。旅の最終日の夜にカールと話しながら大きな瞳が潤んでるとこなんか、もらい泣きしてしまったもの。

そしてカールに続いてレストランを辞めて、無償で助手を買って出たジョン・レグイザモ演じるマーティン。タダ働きってどんだけイイ奴なんだよσ(^_^;)

エンドクレジットでは、この映画でフード・コンサルタントを務めたロイ・チョイがカール役のファヴローにクロックムッシュの焼き方を教えている。パンの焼き方一つが世界の存亡にかかわるようなことを言いながらw

バターがたっぷり塗られたパンとパンの間のチーズがとろけてて、もうスクリーンに手を突っ込んで食いたかったよ。


香ばしい薫りがしてきそう。


劇中でカールが、自分で作ったクロックムッシュをまた旨そうにサクサクと音立てて食うんだ。

食いしん坊殺しの映画ですね。

キューバサンドイッチもそのうち食べにいきたいなぁ。



追記:

 
食べたよ~(あいにくローストポークを切らしていたのでハムと卵とチーズで)(^o^) うまし!


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