TOHOシネマズで5/9(金)から公開中の宮崎駿監督の1979年のアニメーション映画『ルパン三世 カリオストロの城 デジタルリマスター版』を観てきました。




基本的にこのブログでは新作劇場映画を扱っていますが、今回は特別に旧作を。

昨年は宮崎監督の最後の長篇アニメーション『風立ちぬ』が劇場公開されたけど、それに続いて奇しくも同監督の長篇初監督作品が劇場公開されることに。

今回の劇場公開はブルーレイが発売されるからか実写版の公開に合わせてなのかわかりませんが、僕はこの映画を初公開時にリアルタイムでは観ていないから映画館のスクリーンで観られることは望外の喜び。

宮崎駿監督の作品の中では『ラピュタ』と同じぐらい好きなので、今現在公開されてるどの新作映画よりも楽しみだったほど。

1日に2回の上映、それも夕方からで、せっかくだから2回続けて観たかったんだけど、終電に間に合わなくなるので泣く泣く1回だけ鑑賞。

ドロボーさんに「心を盗られて」きましたよ♪…女の子じゃなくておっさんですが。

特典で79年当時に作られたチラシの復刻版をもらいました。独特の文体が時代を偲ばせます。




作品の感想は以前もう一つのブログに書いているので、そちらをご参照ください。

会場は最新映画が上映されている一番大きなスクリーンではなくてちょうど「午前十時の映画祭」をやってるやや小さめのプレミアスクリーンだけど、いつも座るC列の真ん中ぐらいだとちょうどスクリーンが視界一杯になって丁度いいし、リクライニングシートでゆったり観られて快適。

映像も音声もクリアになって、スクリーンで繰り広げられる「血湧き肉踊る冒険活劇」を堪能。

やはりTV放映やDVDとは比べ物にならない迫力。

初公開時には当たらなかったものの口コミで次第に人気が出て80年代に盛んに上映されていたそうだけど、そういう単館系や16ミリでの上映会などを除いては宮崎駿やジブリの作品が全国規模で一斉にリヴァイヴァル上映されることは今までなかったし、これからだってそうそうないだろうから貴重な体験となるはずで、昔からのファンのみならずこれはぜひ多くの人たちに足を運んでほしいところ。


さて、もはや「古典」ともいえるこの『カリオストロ』は、フランスのポール・グリモー監督によるアニメーション映画『やぶにらみの暴君王と鳥)』からいくつかのイメージを拝借していることが知られている(カリオストロ伯爵とクラリスの婚礼の模様や城での戦いはエロール・フリン主演の『ロビンフッドの冒険』(1938)のクライマックスによく似ている)。

  

 


まだ「漫画映画」を作っていた頃の宮崎監督はわりと臆面もなくさまざまな作品からの“イタダキ”をやっていて、でもそれらを巧みに自家薬籠中のものとしているので単なる「パクリ」ではなく、すでにオリジナルとして成立している。

また宮崎駿作品は自分の過去作からの焼き直しも少なくない。

そういう意味でも『カリオストロ』は、それまでのアニメーション作品の集積のような映画ともいえる。

『カリオストロ』や『ナウシカ』『ラピュタ』などはその後いろんなフォロワーパスティーシュを生んだけど、その中でオリジナルに並ぶかそれを超えた作品というものにお目にかかったことがないことからも、宮崎さんがいかに「パクリ」が巧かったかがうかがえる。

誰にでも理解できる世界観と起承転結がハッキリしたシンプルなストーリー、しっかりと張られた伏線、最後の大団円。娯楽作品としての完成度は他の宮崎作品と比べても高い。

作品ごとに枚数が増えて線がより緻密になり一枚一枚の絵のクオリティが上がった近年の宮崎作品の方が技術的には格段に上と見られるかもしれないけれど(製作期間や予算が段違いなんだからその辺は仕方ないと思う)、何よりも『カリオストロ』は「漫画映画」としての躍動感に満ちている。

僕は『カリオストロ』の大活劇を観るたびにいつも胸が躍り、最後は「完」の文字にジ~ンとくる。

これまで定期的にTVで放映されてきたのでそのたびに観てるし内容だって台詞を暗唱できるほどだけど、それでもこの映画の“見る快感”はこたえられない。

ちょうど小さな子どもが何度もお気に入りの絵本を親に読んでもらったり、おじいちゃんやおばあちゃんに昔話をねだるように、僕はこの映画を観てはアニメーション映画の原初的な喜びに浸る。

実は僕はこの『カリオストロの城』をちゃんと観たのは『ナウシカ』や『ラピュタ』よりもずっとあとだったからこれはただのオヤジの「懐古」ではないし、みんなが褒めてるから「傑作だ」と言っているのでもありません。

時代を越える面白さを持った作品だと思います。


今回劇場でこの映画を観て、宮崎さんの劇場長篇初監督作品のヒロインであるクラリスの中にあらためて「宮崎ヒロイン」の原点を見た気がしました。

最終作『風立ちぬ』のラストで主人公・二郎の妻の菜穂子にこれまでの宮崎ヒロインたちが重なって特別な感慨があったんだけど、二郎に命を助けられてから彼をひたすら愛し続けた菜穂子には、「私も連れてって。泥棒はまだできないけど、きっと覚えます」と言ってルパンとともに生きることを望んだクラリスの生まれ変わりのような雰囲気さえ感じる。

クラリスは健気で古典的な「お姫様」なのだけど、『カリオストロ』以降は個性的で自己主張もハッキリとする、みずから積極的に行動するヒロインを描いてきた宮崎駿の作品の中ではずいぶんと古風なキャラクターに感じられる菜穂子は、従来の宮崎アニメにおけるお姫様の変奏だったといえるだろう。

僕にはまるで宮崎監督が最終作*で今一度「永遠のヒロイン」としてのクラリスに立ち返ったように思えたのでした。

『カリオストロの城』の冒頭と終盤でクラリスは純白のウェディングドレスを着ている。

『風立ちぬ』の菜穂子もまた花嫁姿になる。

 


クラリスの花嫁衣裳は悪役であるカリオストロ伯爵との結婚のためだったが、『風立ちぬ』で主人公はヒロインと祝言をあげる。

それはついにきた安らぎの時にも思えたが、しかし二郎には愛する人との“しばしの別れ”が待っている。

悪い魔法使いに捕まえられていた女の子を緑の野に放してあげて、「さいならぁ」と手を振りながら去っていったルパン。

『風立ちぬ』の最後に菜穂子は緑の野に還っていった。

ここに円環が完成して、その中で宮崎ヒロインは永遠に生き続ける。


ルパン役の山田康雄さん、銭形警部役の納谷悟朗さん、カリオストロ伯爵役の石田太郎さん、ジョドー役の永井一郎さん、そして庭師の老人役の宮内幸平さんなど、おなじみだったヴェテラン声優さんたちはすでに鬼籍に入られているけれど、この『ルパン三世 カリオストロの城』はこれからも多くの人々に観続けられていくでしょう。

クラリスが呟いたように、僕たちはいつでもまたルパンに会えるのだ。


※2017年、宮崎監督の長篇最新作『君たちはどう生きるか』の制作が発表されて、引退は撤回されました。





※原作者のモンキー・パンチさんのご冥福をお祈りいたします。19.4.11
※五ェ門役の井上真樹夫さんのご冥福をお祈りいたします。19.11.29
※次元大介役の小林清志さんのご冥福をお祈りいたします。22.7.30
※峰不二子役の増山江威子さんのご冥福をお祈りいたします。24.5.20



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またね!「未来少年コナン」



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