映★画太郎の映画の揺りかご


レイトショーで『猿の惑星:創世記 (ジェネシス)』鑑賞。監督:ルパート・ワイアット、主演:ジェームズ・フランコ

ほかにも観たい映画は何本もあったんだけど、とにかく気になってたんで。



企業でアルツハイマー病の治療薬を研究しているウィル(ジェームズ・フランコ)は、実験体のチンパンジーのメスに新薬を試す。飛躍的に知能が高まったチンパンジーは赤ん坊を産んで、ウィルが引き取ることになる。


リアル版「ひとまねこざる」って感じでしょうかニコニコ

動物園の猿たちにこの映画のフッテージを観せたらしいけど、なんの意味があるんだか。

はたして「天才!志村どうぶつ園」のパン君が観たらどういう反応を示すんだろうな。

予告篇を観ればだいたいストーリーの展開は予想できるんだけど、まさにそのとおりになります。

人間側の主人公ウィルを演じるのは、サム・ライミ版『スパイダーマン』や『127時間』などのジェームズ・フランコ。

僕はずっと前から、この人なんとなく顔がデニス・ホッパーに似てるなぁ、と思ってるんですが。

それはいいとして。

ウィルのアルツハイマーの父親を演じているのはジョン・リスゴー

オカマさんだったり(『ガープの世界』)飛行機の窓からグレムリン見たり(『トワイライトゾーン』)スタローンと闘ったり(『クリフハンガー』)レイジング・ケインだったり、最近では「くりぃむしちゅー」の有田哲平に似ている、という大変くだらない理由で紹介されたりと、僕のなかでは“怪優”のイメージが強いんだけど、ここでは認知症の弱々しい老人の役。

なんとなく複雑な気分だ。


んで、映画はどうだったかというと……ウルんだ!!

いやぁ、ほんとに涙流しそうになってしまった。

TVCMで、なでしこジャパンの澤さんはウソいってませんよ。

これは評判いいのもわかるなぁ。

ご存知のとおり、『猿の惑星』は過去に何作も作られているけど、この『創世記』は完全に独立した作品なので過去作をまったく観ていなくても十分愉しめます。

あと、特にオリジナル版の第1作目のような「驚愕のオチ」はないので、そういう期待は無用。

そんなわけで、映画の感想に入る前にしばらく過去のシリーズについて触れていきます。

以下、『創世記』とともに過去の『猿惑』作品の【ネタバレ】がありますので、未見のかたはご注意ください。



チャールトン・ヘストン主演の第1作目(1968)を観たのはヴィデオでだったかTV放映でだったか、もはやおぼえていない。

『猿の惑星』(1968) 監督:フランクリン・J・シャフナー 出演:ロディ・マクドウォール キム・ハンター



日本語吹替版でヘストンの声を担当していたのは、先ごろ「ルパン三世」の銭形警部役を山寺宏一に引き継いだ納谷悟朗

第2作目『続・猿の惑星』(1970)を観たのは、たしかティム・バートン版が公開されたとき。つづけて『新・猿の惑星』(1971)『猿の惑星・征服』(1972)ぐらいまでをDVDでいっき見した記憶が(でもストーリーをよくおぼえてない…)。

『続・猿の惑星』は頭に気持ち悪い血管が走ったミュータントが登場したりして、「なんか話が変な方に向かってるなぁ」と思った。

それでもそのいかにも70年代的なペシミスティックであっけない結末には、むしろある種の心地よさを感じたりもした。

製作年を見ればわかるように『続・猿の惑星』以降は毎年続篇が公開されてて、現在のハリウッド映画からはちょっと考えられないぐらいの連打ぶり。

回をかさねるごとに低予算化していって、ヴィジュアル的にはもはやSF映画としての醍醐味はなくなっている。

そもそも『猿の惑星』はシリーズ化されてからは派手な特撮やアクションを売りにした超大作というよりも、公開当時のアメリカ社会を猿たちの姿を借りて戯画化したものだった。

だから、今回の『創世紀』を観て興味をもってDVDで観たら「安っぽいし地味でつまらん」と感じる人もいるかもしれない。

でも少なくともその後さまざまな作品に影響を与えた1作目は観ておいて損はないと思うし(日本でも「ウルトラセブン」の第43話「第四惑星の悪夢」でその設定が拝借されたり、「猿の軍団」なんてTVシリーズが作られたりしている)、今回の映画のもとになった、猿たちのリーダー、シーザーがいかにして人類に反旗をひるがえして猿の惑星を作り上げていくのか、順にシリーズを追っていくのも面白いんじゃないかと思います。


さて、最初のシリーズが完結してから28年後の2001年。『猿の惑星』はティム・バートン監督によって『PLANET OF THE APES 猿の惑星』として再映画化された。

『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(2001) 監督:ティム・バートン 主演:マーク・ウォルバーグ



監督によって“リ・イマジネーション”と称されたこの映画はしかし、俳優たちの熱演にもかかわらず評判は芳しくなく、シリーズ化には至らず。

僕自身、それまでファンだったティム・バートンの作品から距離を置くきっかけとなった残念な作品でした。あのスカしギャグみたいな「オチ」にはほんとにガックリした。

今では「黒歴史」とされてます(好きなかた、ゴメンナサイ)。

もっとも僕はTVで放映されたのを再見して以来観ていないので、今なら普通に楽しめちゃうかもしれないが。

ティム・ロスヘレナ・ボナム=カーターなど実力派俳優たちが特殊メイクで猿になって(オリジナル版の主役チャールトン・ヘストンもゲスト出演)、パントマイムの訓練をして臨んだ演技はなかなか見ごたえがあったし、オリジナル・シリーズではゴリラは獰猛な軍人、オランウータンは政治家、そしてチンパンジーはリベラルな科学者という描き分けがされていたのが、この映画では一番気が荒くて凶暴なのがチンパンジーで、一方で正義感が強く心優しいゴリラの戦士(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)がいたりしたのが新鮮だった。

オリジナル・シリーズにあった人種や社会的地位などのメタファーは、この作品では消えている。

それゆえ、ヴィジュアル面ではより高度な特殊メイクやVFXを使って迫力が増しているけど深みが皆無な作品になってて、それが不評の原因となったんではないかと。

そしてそれからはや10年(早ぇな、もうそんなに経つのか)。

『猿の惑星』はあらたに始動した。

今回、特殊メイクや着ぐるみ(エイプ・スーツ)は一切使われず、登場する猿たちはすべてCGで描かれている。




モーション・キャプチャーで俳優の演技を記録して、その細かい表情までも反映させている。

ジェームズ・キャメロンが『アバター』で生み出した「エモーション・キャプチャー」と呼ばれる技術。

今回は、従来のように室内のグリーンバックの前で撮影するのではなくて、モーション・キャプチャーを付けた俳優が実際に撮影現場でほかの俳優たちとからむ。

“主人公”の高度な知能をもった類人猿シーザーを演じるのは、『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムや『キング・コング』のコングでも素晴らしい演技を見せていた、今やモーション・キャプチャー俳優の第一人者でもあるアンディ・サーキス

「着ぐるみ俳優(スーツアクター)」はこれまでにも大勢存在しているけれど、彼の場合は身体の動きだけでなく顔の表情までも演じているところが従来の着ぐるみとは大きく異なる。

ちなみにネットで「予告篇を観たらチンパンジーに白目があった。あれは設定ミスだろう」とツッコんでた人がいたけど、その理由はちゃんと描かれてます。文句は映画観てからいえ、と。

それと『猿の惑星』を「反日映画だ」とかホザいてるネトウヨは迷惑だから映画について語らないでほしい。

これまでの映画を観てたらそんな単純なものではないことがわかるはずだ。

ピエール・ブールの原作小説も、作家本人が第二次世界大戦中に日本軍の捕虜になった体験が作品を書くきっかけとなった、ということであって、小説そのものが日本人を直接揶揄したり差別的に描いているわけではない。


猿たちの描き方については、これまでの『猿の惑星』の諸作品が、見た目は猿だけど人語を話し物腰はほとんど人間(旧シリーズ)、あるいは猿の習性を残しつつもやはりきわめて人間に近かった(ティム・バートン版)のに対して、この『創世記』では「次第に人間に近づいていく猿」というのが表現されている。

『創世記』に登場する猿たちは一見すると普通のチンパンジーやゴリラ、オランウータンに思えるが、それらはすべて俳優たちがエモーション・キャプチャーで演技したものである。

本物は使っていない。

だから無表情に見えてもどこか人間に似ていて、だからこそより感動を呼ぶ。

特に成人してからのシ-ザーの表情はあきらかに普通のチンパンジーのものではなく、より人間に近くなっている。

顔つきもだんだんと人間に近づいていく。

最初の方と最後のあたりのシーザーの顔を見比べてみればその変化がよくわかる。

彼はもはや猿ではなく、しかし人間でもない。

類人猿の強靭な肉体と運動能力、そして人間と対等な知能の両方を併せ持った、まさに「新種の人類」といったところ。

僕はこの映画を観ていて、シーザーの雄姿に涙がこぼれそうになってしまった。

CG製のエテ公に泣かされるって、考えてみりゃスゴいことだ。

なんとなく昔のウォークマンのCMを思い出した、というのもあるかもしれない。




ジュリアス・シーザーからその名を付けられたシーザーはウィルの家で人間の子どものように大切に育てられていたが、隣人に暴力を振るったために施設に入れられて檻に閉じ込められる。

この施設で働いているのが『ハリー・ポッター』のドラコ・マルフォイ役のトム・フェルトン

なんかその後のマルフォイを見るようなイジワルな小物で、友だちの前で猿をいじめて女の子に引かれたりしてる。

その残念過ぎる末路には涙を禁じえない。

『ハリポ』の子役が別の作品に出てるのをはじめて観たんだけど、彼はこれからもこういう憎まれ役をつづけていくのだろうか。

なんだかとっても不憫でならない。

たまには心優しい青年の役もやらせてあげて汗

さて、人間同様に育てられたシーザーは施設で最初はほかのチンパンジーたちにいじめられるのだが、すぐにその頭脳をフルに活用して群れのリーダーにのし上がる。

その過程がもうほんとに小気味よい。

まず最初に豪腕のゴリラを味方につけるところも抜け目がない。

自分をいじめたボスチンパンをボコって手下にする。

頭がいいオランウータンとも手話で意思疎通をはかって協力し合う。

そして、ついに彼が人間の言葉を口にした瞬間、映画館の客席からどよめきとも笑い声ともいえない反応があった。

自分の意思を人語で発してみせた、その第一声が拒否の言葉だったのも興味深い。

この映画には、これまで人類がたどってきた歴史を猿たちがもう一度なぞってみせる面白さがある。

しかも猿たちはそれをほとんど無言劇でジェスチャーによって演じている。

この映画の見どころはまさにそこで、シーザーが施設の猿たちを掌握して脱出、金門橋を突破して、さぁこれから戦いがはじまる、というところで映画は幕を閉じる。

僕が観てた映画館では、本篇が終わってエンドロールが流れ出すと立ち上がって帰りだす人たちが大勢いて、その途中でまだなにか映し出されてるにもかかわらずやっぱり帰りだす人たちがいて、悪いけど「バカじゃねーの」と思った。

まぁ、その日の最終の回だったんで終電とか気になって急いでたのかもしれないけど。

でも一応エンドロールが流れ出しても席立たない方がいいですよ。

次回作につづく伏線が出てくるから。


そういうことで、大変満足して映画館をあとにしました。

今年観た映画のなかでもけっこう上位にくるのは間違いない。

ただし、そこまでベタ褒めしといてなんですが、冷静に考えると首をかしげざるをえない部分もなくはない。

以下に書くのは、この映画の悪口というよりは、気になった点です。

なのでこの映画の面白さを否定してるわけじゃないんでご了承ください。


ウィルは試作されたアルツハイマーの治療薬がチンパンジーの知能を著しく高めたため、それを父親にも投与する。

父親はいっとき回復をみせたが、やがて急速に症状が悪化してついに亡くなってしまう。

このあたりはちょっと性急だったのではないだろうか。

この父親とシーザーとのあいだには強い絆がむすばれていたのだから(シ-ザーが隣人に暴力を振るったのも、この父親を守ろうとしたため)、彼の死はシーザーにとってもショックなはずだが、そこがまったく描かれていないのは少々ストーリー的に不備な気がした。

映画を観ているあいだはさほど気にならないが、しかしのちのちよく考えてみると、となりの家に住んでいて車を壊されチンパンジーに殴られ、あげくのはてに大変なことになってしまうパイロットや、先ほどの施設で猿たちを虐待するトム・フェルトン、そして最後に猿によって粛清されてしまう企業の所長などがあまりにも一方的に悪役然として描かれていて、釈然としない気持ちが残る。

また、そもそもこのような騒動の原因を作ったのはウィルであって彼にはかなり重い責任があるはずなのだが、そしてそのことについて彼も最後に反省はするものの、それは「シーザーたち猿に迷惑をかけた」といった感じで、なんだか「いいことした」みたいな顔してるのも納得いかない。

あんたのせいで人類がヤバいことになってますが、わかってるか?

ウィルの恋人を演じるフリーダ・ピント(『スラムドッグ$ミリオネア』のヒロイン)も、後半あまりストーリーにかかわらなくなるし。

そして、「猿が吸うと一夜にして頭が良くなるが、人間が吸うとウィルスが発生して血を吐いて死ぬ」などという都合のいい薬品が実在しうるのか?という疑問。

なんとなくストーリーを手っ取り早く転がすための便利な小道具に思えてならない。

地球上では猿よりも人間の方が圧倒的に数が多いのだから、次回作で人間の数が大幅に減っていてくれないと、猿たちが地球を支配できないからね。

…と、まぁ、「これはどうなんだ?」と思うところがないわけではないんだけど、そんなのは重箱の隅であって、繰り返すけど猿たちの「反乱」の描写は燃えるし、そここそがこの映画のキモなんで、オッケーかな、と。

実はこの映画の内容自体はけっしてド派手ではなくて、描かれてる物語はハリウッドVFX超大作としてはとても地味。

宇宙船が出てくるわけでもないし、なにしろクライマックスは猿と人間の戦いという、画的には面白味を感じづらいアクションである。

でも燃えるんだこれが!

騎馬隊が猿たちを攻撃するところは、オリジナル版でゴリラたちが馬に乗って人間を狩る場面の裏返しにも見えた。

ゴリさんの熱演にマジ泣きしそうになった。

あと音楽による効果も大きい。

ぜひご堪能あれ。



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