【改訂版】北朝鮮が発射する弾道ミサイルは迎撃が非常に困難である!! |  Egi Shun,s BLOG~歴史教科書から探る史実探訪

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山川出版社刊 『詳説 世界史研究』『詳説 日本史研究』 の記述から、気になる史実を探訪しています。右サイドバーの目次からどうぞ

※) 今年4月の北朝鮮ミサイル発射の際に書いた記事(3月29日付)の改訂版です。 以前の記事は削除済み


ミサイルの先端にのっけるのが人工衛星であろうが核弾頭であろうが通常弾頭・キムチ爆弾であろうが、それを運ぶのはロケット技術です。ミサイルに高い軌道を取らせる場合、そいつを飛ばすロケット技術には宇宙ロケットを飛ばす技術が必要です。

簡単に言うと、非常に高い軌道を飛ばす弾道ミサイル技術というのは、根本的には宇宙ロケット技術と同じです。先端に破壊兵器の弾頭を積んで大気圏外に発射して、先端部分を大気圏に再突入させて敵国の基地や都市に命中させる仕組みです。

ただし、人工衛星ロケットと弾道ミサイルロケットでは、目的と求められる性能が全く異なるため、根本的な技術以外のところは別物と考えたほうがよさそうです。

大気圏外に飛ばさないミサイルには、アメリカ軍のトマホークミサイルに代表される「巡航ミサイル」(翼がありジェットエンジンで水平に推進する)と旧ソ連開発のスカッドミサイルに代表される「弾道ミサイル(低い軌道を取るもの=弧を描く飛行)」があります。

ジェット機やらロケットやらを撃ち落とすのは難しいでしょう。その中でも大気圏外から飛んでくる宇宙ロケットを撃ち落とすのはとりわけ困難だろうということは、なんとなく素人の私でも想像がつきます。

それで今回の北朝鮮のミサイル発射なのですが、やつらは人工衛星と言い張っており、①発射時期や発射場所を探索する必要がありません。モノホンの弾道ミサイル兵器ならば時と場所も極秘にされますからもっと厄介です。

またどのへんを通って、どのへんに落ちるのかも、北朝鮮は発表しています(平和利用の人工衛星らしいので)。②なのでこれも探る必要がありません。モノホンの弾道ミサイル兵器ならば、もちろんこれも極秘です。

弾道ミサイルの迎撃が困難である理由のうち上記の①②は発射前から回避されています。しかし他にも迎撃困難な理由は複数あるのです。箇条書きにして紹介しましょう。

それ以前の問題として北朝鮮の技術力では「発表通りの軌道で飛ばない」もしくは「発射そのものが失敗する」という懸念もあります。どこに飛ぶか分からんということです。

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③迎撃困難な軌道を通る
宇宙空間にまで迎撃用のミサイルを打ち上げるのは容易ではない。弾道ミサイルを撃ち落とすには専用ミサイルの開発が必要となる。

④着弾までの時間が非常に短い
弾道ミサイルが発射されてから着弾するまでの時間は距離や軌道によって変化する。今回北朝鮮が発射するミサイルは発射から着弾まで約9分と推察される。これを探知・捕捉・追尾するためには相応の技術をつぎ込んだ迎撃システムが必要となる。

注)日本に向けられていると推定されるノドンミサイル数百発は発射から着弾まで約5分。
搭載可能な核弾頭があるかどうかは不明。


⑤非常に速度が速い
着弾に近いミサイルの高度が低くなる段階では、速度の問題があるため簡単には迎撃できない。ミサイルは再突入の段階で落下の法則通り加速度的に高速となる。

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非常に困難だとはいえそれに挑戦し続けてきたのが人類の歴史です。とりわけ軍事という分野にはいつの時代も最新の技術が導入されてきました。人類の歴史って争いの歴史なのです。冷蔵庫も電子レンジも兵糧改善のため発明後すぐ軍事に転用されました。

現在の最新の「弾道ミサイル迎撃システム」は、簡単に書くと以下のとおりとなります
Ⅰ)
高高度の弾道ミサイルを正確に捕捉・追尾するAN/SPY-1レーダー
(イージス艦に搭載)
Ⅱ)
海上で発射し、大気圏外を飛翔中のミサイルを撃つスタンダードミサイル SM-3
(イージス艦に搭載)
Ⅲ)
拠点近くの陸上から、ミサイルの高度が低くなる再突入時を狙うパトリオットミサイル PAC3

注)日本の保有する情報収集衛星は、原理的にリアルタイムでの情報収集は不可能なので、衛星による早期警戒情報はアメリカ軍に頼ることになります。発射の瞬間を探知するのはアメリカ軍です。

映像で見たほうが分かりやすいので↓をどうぞ。レーダーで捕捉・追尾、ミサイルをぶち当てるまでの過程です。

   JMSDF海上自衛隊チャンネル(youtube)より。http://www.youtube.com/user/jmsdfmsopao

スタンダードミサイル SM-3を搭載してるイージス艦↓ ( )内は艦番と母港

こんごう (DDG-173・佐世保基地)
2007年12月18日のハワイ、カウアイ島沖での迎撃実験(JFTM-1)で、SM-3ブロックIAにより、高度100キロ以上の大気圏外を飛行する標的ミサイル1発の迎撃に成功した。

ちょうかい (DDG-176・佐世保基地)
2008年12月20日に、模擬弾道弾の発射時刻を知らされない状態での迎撃実験(JFTM-2)を行い、探知、追尾、発射には成功したが撃墜には失敗した。

みょうこう (DDG-175・舞鶴基地)
2009年10月27日に弾道ミサイル迎撃試験(JFTM-3)を行い、予め時刻を知らせられない条件下で発射された射程1000km級の弾頭分離型準中距離弾道ミサイルを模した標的ミサイルの捕捉・追尾・迎撃に成功した。

きりしま (DDG-174・横須賀基地)
2010年10月28日に弾道ミサイル迎撃試験(JFTM-4)を行い、予め時刻を知らせられない条件下で発射された射程1000km級の弾頭分離型準中距離弾道ミサイルを模した標的ミサイルの捕捉・追尾・迎撃に成功した。

注1)母港(定係港)と所属司令部の場所は必ずしも一致しない。
注2)SPY-1レーダーは全艦搭載。最新型イージス艦のあたご型(あたご・あしがらの2隻)も搭載している。
注3)あたご型はSM-3を搭載していない。搭載する計画はある。現状搭載しているのはSM-2である。

この件で昨日いいニュースが飛び込んできました。

$Egihson,s BLOG


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121211/plc
搭載計画は2011年に決定していたのですが、これでより確実に搭載されることが決まったと言えます。心強いですね。周辺海域での活動が長期にわたった場合も心配は無用です。

  ↓ 2012年4月12日(木)14:30頃撮影 出撃する補給艦「ましゅう」 ↓
$Egihson,s BLOG

自衛隊インド洋派遣で洋上給油任務についた実績を持つ最新型の補給艦です。フル実戦モードで出港していきましたが翌日に北朝鮮がミサイルを発射したため活躍することはありませんでいた。


日本がこのような高性能なミサイル防衛システムを有し、なおかつ弾道ミサイル迎撃試験に成功しているのは周辺国にとって脅威のようです。

香港のテレビ局の報道ニュース ↓ です。

香港のテレビ報道でさえこんなですから、中・朝・韓はもっと脅威に感じているはずです。アメリカ軍以外に「弾道ミサイル防衛システム・SM-3&PAC3」を実戦配備しているのは日本の自衛隊だけなのです。


「弾道ミサイル防衛システム・SM-3&PAC3」のなかで、PAC3は二義的な役割と言えます。再突入から着弾期での迎撃を行うのですが、イージス艦のスタンダードミサイル(SM-3)を凌駕するような信頼性はありません。

大気圏再突入から着弾までのあいだの迎撃ですから、ここで失敗するともうアトがありません。イージス艦のスタンダードミサイル(SM-3)が命中していて、その破片を撃つというのであらば、少々撃ち漏らしてもいい。

しかしSM-3による迎撃が失敗し、無傷で宇宙空間から再突入してきて正常に着弾してくる弾道ミサイルを、地上から迎撃するのはかなり難しそうです。でもこうなっちゃった場合はもうアトがないので、失敗できないのです。

まあ、日本国の現状・自衛隊の装備許容範囲内で、一定レベルのミサイル防衛システムが構築されているとは判断いたします。あたご型へのSM-3を搭載・日本独自の早期警戒衛星の運用・集団的自衛権の行使可能まで実現したらもう少し安心できそうです。

早期警戒衛星についてはこちらの過去記事をどうぞ ↓
http://ameblo.jp/egiihson/entry-11245949992.html
日本独自の早期警戒衛星を打ちあげて運用したい

これ以上となりますと、自衛隊の枠内を超えることになりそうです。なにかと申しますと、日本が弾道ミサイルを保有し、抑止力として仮想敵国の領土へ照準を向けるということです。これは自衛隊のままでは装備できんでしょう。

もし装備するとしたら?潜水艦発射弾道ミサイル( submarine launched ballistic missile、SLBM)がいちばん現実的かな?と素人考えで勝手に思っています。さまざまの高いハードルがあるので簡単にはできません。

日本は海洋国家ですから、周辺海域にSLBMの潜水艦艦隊がいるってだけで十分抑止力になると思います。 詳しくは ↓
wikipedia.org/wiki/潜水艦発射弾道ミサイル