金融・商事判例1732号で紹介された裁判例です(東京地裁令和6年9月2日判決)。

 

 

相続税において、空き家特例と呼ばれる制度があり、建物及び敷地の「双方」を遺贈または相続によって取得したことが要件の一つとされています。空き家特例が認められると、当該不動産をすぐに売却したとしても、譲渡所得金額から最大3000万円が控除されることになっています。

 

 

本件は、先に父親が亡くなり、次に母親が亡くなりそれそれ相続が発生したものですが、敷地は母親名義、父母が生前に居住していた建物は父親名義でした。

空き家特例を受けるためには、敷地も建物も母親から遺贈または相続を受ける必要があります。

 

 

しかし、遺産分割協議書(司法書士作成)では、父親名義のままであった建物について、父親から相続人が直接相続するという内容になっており、そのように登記がされました。

 

 

そのため、前記の建物及び敷地の「双方」を遺贈または相続によって取得したという空き家特例の要件を満たさないことになってしまったため、税理士に対し説明助言指導義務違反が追及されたというのが本件になります。

 

 

本件において、相続人は、被告である税理士に対して相続税の申告を依頼しており、譲渡所得税についての委任は受けていませんでしたが、この点につき、判決は、原則として委任事項を対象とした義務を問題とすべきではあるが、受任者が委任事項に関連する委任事項外の事項について委任事項外であることを明確にしたうえで最低限の回答を行うのにとどまらず、委任者に対して特段の留保を付すことなく積極的に説明、助言指導を行うのであれば、委任者の立場からすればね専門家としての説明、指導助言であることに変わりはないとし、委任事項外であるとはいえ、関連事項についても専門家としての善管注意義務及び信義則上の義務が生じるとしています。

 

 

そして、本件では、税理士は、相続人が相談時から売却した際の税金のことについて心配しており、父親からの建物の相続を内容とする遺産分割協議書の案をメールで送付され、建物の売却を進めようとしていることを認識した上で、相続人に対して、空き家特例についての制度の一般的な紹介に留まらず、その適用要件や節税効果について本件不動産を売却した場合に即して具体的に説明したほか(なお、税理士が作成した見積書では、父親からの相続ではなく一旦母親が相続したことを前提とする数次相続が前提とされていました。)、空き家特例を利用して本件不動産を売却することを積極的に勧め、適用要件の一つである3年の売却期限の起算日について調査した上で回答することを約したことなどから、空き家特例について説明、指導助言するに際し、依頼者の利益を図るための具体的な義務として、司法書士が作成した遺産分割協議書案をもとに相続登記手続をした場合に、本件不動産の売却が特例の対象とはなるか否かを血をウ刺したうえで説明、指導助言すべき義務があったのに、その再検討の機会を与えることなくそのまま相続登記手続きを進めたことにより特例の適用要件を満たさないこととなり、相続人に対して損害を与えたとしています(相続人二人に対してそれぞれ509万円余の賠償を命令)。

なお、遺産分割協議書案を作成したのは司法書士ですが、当該司法書士は税理士が紹介しておりその費用も併せて受け取る関係にあったことや事前に案文の送付を受けるなど事前に相応の関与をしていたことなどから、このことは義務の発生を妨げるものではないしています。

 

 

・・・弁護士の相談にあたっては関連するさまざまな相談に話が飛ぶことがあります。離婚の相談にあたっての面会交流の相談といった密接に関連する相談もあれば、まったく関係のない労働関係の困りごとといった法領域を異にする相談、税金や社保関係、登記の畑違いの相談まで様々ですが、こちらが軽く応じたつもりでも、相談した方にとっては弁護士が回答したばあそれを信じて対応したり対応しなかったりということを決めるでしょうし、専門知識や自信がないような場合には「あくまで一一般論です。」「くわしくは専門職種に相談してほしい。」といったことを述べて、かつ、メールなどでも残しておくという新調査が必要であるということは意識しています。

 

 

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