判例タイムズ1519号などで紹介された最高裁判例です(最高裁令和5年10月16日判決)。

 

 

人身傷害保険金が支払われた場合の人傷社による自賠責保険金の回収がされた場合の被害者の加害者に対する損害賠償請求請求の際の充当関係について、最高裁令和4年3月24日判決のほか裁判例が出ているところです。

 

 

人傷社が自賠責基準により算定した保険金を支払い自賠責保険から回収した場合の充当関係 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

人身傷害保険会社が被害者の同意を得てした自賠責保険金の回収を加害者による弁済と同視することの是非 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)

 

 

令和4年判決では人傷社が自賠責保険を受け取ったとしても、これを加害者に対する損害賠償請求金額から控除することは出来ないとしましたが、「自賠責保険による損害賠償額の支払の受領権限を委任したものと解すべき事情」があるような場合には充当もされ得るように読める判旨でもあり、この点につき、本件では、人身傷害保険金の支払に際して取り交わされた仮協定書において、①人傷社(参加人)により支払われる保険金の合計が3000万円であり、これは自賠責保険の保険金額を含む旨、②今回支払われる保険金を受領することにより、本件事故を原因とする被害者遺族ら(上告人)の加害者ら(被上告人)に対する損害賠償請求権が上記保険金の額を限度として人傷社に移転することを承認する旨、③人傷社が自賠責保険への精算を行った後に、精算額を限度として最終協定を行うことを認める旨の各記載があったことから、「自賠責保険による損害賠償額の支払の受領権限を委任したものと解すべき事情」があるといえるかが争点となりました。

 

 

高裁判決はこれを肯定し、本件で支払われた金員は人身傷害保険金としてではなく、自賠責保険からの損害賠償額の支払の立替払として支払われたと認定しましたが、最高裁はこれを覆しています。

 

 

【判旨】

・本件約款によれば、人身傷害条項の適用対象となる事故によって生じた損害について参加人が保険金請求権者に支払う人身傷害保険金の額は、保険金請求権者が上記事故について自賠責保険から損害賠償額の支払を受けていないときには、上記損害賠償額を考慮することなく所定の基準に従って算定されるものとされている。このような約款が適用される自動車保険契約を締結した保険会社が、保険金請求権者に対し、人身傷害保険金として給付義務を負うとされている人身傷害保険金額に相当する額を支払った場合には、保険金請求権者との間で、上記保険会社が保険金請求権者に対して自賠責保険からの損害賠償額の支払分を含めて一括して支払う旨の合意(以下「人傷一括払合意」という。)をしていたとしても、上記保険会社が支払った金員は、特段の事情のない限り、その全額について、上記保険契約に基づく人身傷害保険金として支払われたものというべきである。なぜなら、上記の場合には、保険金請求権者としては上記保険会社が給付義務を負う人身傷害保険金が支払われたものと理解するのが通常であり、人傷一括払合意をしていたということだけで、上記金員に自賠責保険からの損害賠償額の支払分が含まれているとみるのは不自然、不合理であり(最高裁令和2年(受)第1198号同4年3月24日第一小法廷判決・民集76巻3号350頁参照)、加えて、上記金員に自賠責保険からの損害賠償額の支払分が含まれていると解すると、保険金請求権者の有する損害賠償請求権の額から控除される額に差異が生ずる結果、遅延損害金等の額において保険金請求権者に不利益が生じ得ることをも考慮すると、上記金員は、他にその支払の趣旨について別異に解すべき特段の事情のない限り、人身傷害保険金として支払われたものと解するのが当事者の合理的意思に合致するものというべきだからである。このことは、上記保険会社が、保険金請求権者に対し、当初、上記人身傷害保険金額に相当する額を支払い、その後、自賠責保険から損害賠償額の支払を受けて追加で金員を支払ったことにより、人身傷害保険金額を超える額の金員を支払うに至ったからといって、上記の当初支払分について、異なるものではない。
 

・これを本件についてみると、参加人が上告人らに対して支払った本件支払金1・2の額の合計は、参加人が本件保険契約に基づいて給付義務を負うとされている人身傷害保険金額に相当する額である。そして、本件仮協定書1には、本件支払金1・2について、自賠責保険の保険金額を含む旨や、上告人らの被上告人らに対する損害賠償請求権が本件支払金1・2の額を限度として参加人に移転することを承認する旨の記載があるものの、これらの記載は、本件代位条項を含む本件約款の内容も併せ考慮すると、参加人が人身傷害保険金の支払により本件代位条項に基づき保険代位することを承認する趣旨のものと解するのが相当であって、本件支払金1・2の支払について、自賠責保険からの損害賠償額の支払の立替払であることを確認あるいは合意する趣旨を含むものと解することはできないし、他に、そのような趣旨を含む記載があることはうかがわれない。そのほか、参加人が自賠責保険から損害賠償額の支払として本件各支払金の合計額と同額を受領したことや参加人における内部処理の状況を踏まえても、本件支払金1・2について、人身傷害保険金としてではなく、自賠責保険からの損害賠償額の支払の立替払として支払われたものと解すべき特段の事情があるとはいえない。